11月19日(土) 特別講演

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金田章裕(人間文化研究機構長)

人間文化研究機構と資源共有化事業

  ディジタル技術は人文学にとって、すでに欠くべからざる手段・方法となっている。まず大きな役割を果たしているのが、資源のディジタル化によるその取り扱いの上での便宜である。特に希少性の高い歴史的な資料、さらに例えば、古地図のような形状も多様で、閲覧・保存・整理がむずかしい資料のディジタル化は、研究・教育にとって極めて有益である。
また、研究プロセスにおいてもディジタル技術は多様な可能性をもたらした。私は平安京の復原的研究を進めるに際し、各種の歴史資料・考古資料をマニュアルで地図上に整理して示し、さらに地表に残存する地割形態からも平安京の街道遺構を抽出し、それらをまた伝統的手法で比較するという作業をしたことがある。しかし類似のデータであっても、ディジタル技術による、もっと正確で多様な研究の展開に結びつけることができる。矢野教授を中心とした「バーチャル京都」の研究プロジェクトはその典型である。

 さらにディジタル技術は、各種の資料、研究情報、研究成果の蓄積・検索・公開を容易にした。人間文化研究機構は、膨大な資料・情報などを国内外の大学や研究機関に提供し、それを通じて効果的な共同研究を実施する研究機関である。大学共同利用機関法人として6つの大学共同利用機関からなり、それぞれの研究機関がそれぞれの目的の研究・共同研究を推進すると共に、Ⅰ.それぞれの機関の連携研究、Ⅱ.連携展示、Ⅲ.研究資源の共有化、Ⅳ.日本関連在外資料の調査研究、Ⅴ.国際連携協力、Ⅵ.地域研究の推進、といった人間文化にかかわる総合的研究推進事業を行っている。
これらには、いずれもディジタル技術が必要不可欠なトゥールとなっているが、特に「研究資源の共有化」が直接にこれにかかわる。
人間文化研究機構の研究資源共有化システムは、機構内6研究機関の118データベース(2011年3月)を横断検索する「統合検索システム」(2008年4月公開)と、小規模なデータベースを容易に公開できる研究者参加型の「nihu ONE システム」(2008年12月公開)、および、年代・時代などや地理的位置・地名などの研究情報群とソフトウエア(GT-Map/GT-Time システム)を提供する「時空間システム」(2010年9月公開)から構成されている。
また、国立国会図書館デジタルアーカイブポータルPORTAと、機構の統合検索システムとの双方向の検索を開始した(2010年7月)。
さらに、人間文化研究にかかわる学界の諸機関、研究者と連携した資源共有化環境の構築を推進するために「人間文化研究情報資源共有化研究会」を発足させた(『報告集』Ⅰ、2010年3月、Ⅱ、2011年3月、『ニューズレター』年2回刊)。