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木こりの歌

まとめ

木こりの歌

アメリカの木こりは、ランバー・ジャックとかロガーズなどと呼ばれます。伐採キャンプで働く人々をまとめてシャンティ・ボーイズと呼ぶこともあります。シャンティとは木こり小屋のことです。合衆国の木材フロンティアはメインに始まり、ミシガン、マサチューセッツ、ニュー・ハンプシャー、バーモントと移っていきました。「北極まで続く」と思われる大森林へ極寒の季節に分け入り巨木を斧で切り倒す彼らは、その強靱な肉体と山中での粗野な生活のゆえに野蛮人とされていました。ところが、木こりの歌は意外とおとなしいのです。作業歌がなくて娯楽歌だけが収集され残っています。これにはいろいろな理由が考えられます。彼らがあまり歌わない生活をしていたということも可能性としてはありますが、それよりはむしろ、彼らの歌が下品すぎて20世紀初頭の知識人収集家のモラルに合わなかったため活字になって残されなかったということのほうが、有力な理由と思われます。

 木こりたちは20人から30人がひとつのチームになって冬の間中森に住みます。運搬のために使われる15頭前後の牛(初めのうちは馬)もいっしょでした。そのチームは、まさにいろいろな人の寄せ集めでした。「愉快な仲間よ 歌ってあげよう 木こりの歌さ 暮らしぶりを聞かせてあげよう 陽気なやつらだ 会ってみたくはないかい 冬の月日 松を切って暮らしているのさ 秋がくる 冬が近づく 彼らは野生林に足を踏み込む 春になったら帰ってくる 農夫もいる 水夫もいる 機械工もいる 商人もいろいろ 木こり仲間にはいるんだ」*1と歌われています。

 木こりたちは伐採した材木を適当な長さに切って積み上げ、牛に引かせて雪の上を滑らせ川へ運びます。冬の間そうして材木を川に集めておき、春に雪が解けて川が増水するといっせいに流すのです。河口まで流れていった材木は、船に積まれて各地へ運ばれていくのでした。この川流し作業は、特に勇気と熟練のいる危険な仕事でした。大量の材木が川の途中で渋滞し流れをせき止めることがあったからです。早く渋滞(ジャム)を解いてやらないと状態はどんどん悪化し、川が氾濫して人家や農場に被害が出ます。ジャムを解くには、人が材木に乗って渋滞の原因になっている木を取り除く以外に方法がないのです。取りのけた瞬間に丸太の群れがどっと流れ出すので、それはそれは危険でした。だからでしょう、ジャムの悲劇をうたった歌は数多くあります。なかでも「ゲリーズ・ロックのジャム*2」 はよく知られています。日曜日の朝、ゲリーズ・ロックでジャムがおこります。聖なる休日にそのような危険な仕事をしなければならないのでみんな尻込みするのですが、若い親方のモンローと6人のカナダ人が名乗り出ます。たくさんの丸太をどけたとき突然川が流れ始めて、ジャック・モンローは渦に巻き込まれてしまいます。彼の潰れた身体が血だらけで見つかります。仲間たちは、モンローの稼ぎと手下たちの募金とを彼の恋人だったクララに送ってやります。でもクララは悲しみのあまり死んでしまうのでした。


*1 “The Shanty Boys,” Eckstorm and Smyth, Minstrelsy of Maine: Folk-Songs and Ballads of the Woods and the Coast (1927).

*2 “The Jam on Gerry’s Rock,” Eckstorm and Smyth, Minstrelsy of Maine: Folk-Songs and Ballads of the Woods and the Coast (1927).