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イギリス系アメリカ民謡(1)

イギリス系アメリカ民謡(2)

イギリス系アメリカ民謡(3)

アフリカ系アメリカ民謡(1)

アフリカ系アメリカ民謡(2)

アフリカ系アメリカ民謡(3)

アフリカ系アメリカ民謡(4)

ハワイ日系人の民謡

イギリス系アメリカ民謡(1)

アメリカ合衆国は、もともと移民によって作られた国なので、「アメリカ民謡」と一言に言っても、どこから来たどのような人たちを起源とする民謡かにより、様々な細分がなされる。その中でも、アメリカ民謡のいわば主流と考えられているのが、イギリス系アメリカ人たちの民謡だろう。 
それは、イギリス系アメリカ人が、アメリカ社会において数の上でだけでなく政治的にも経済的にも優位に立ってきた人々であり、彼らの文化=アメリカ文化、という概念が、歴史的に確立されてきたからにほかならない。それは、我々日本人の多くが、アメリカ人というと、アメリカン・インディアンやアジア系アメリカ人ではなく、白人を思い浮かべるのと同じである(もちろん、白人の中にはフランス系、ドイツ系といろいろあるのだが)。
このような背景から、学問の世界においてもイギリス系アメリカ人の民謡は古くから注目を集め、歴史的、社会的、文学的、または音楽的側面から様々な研究がなされてきた。 そのため、このウェブサイトでもイギリス系アメリカ民謡に多くのページが費やされている。
イギリス系アメリカ民謡は、その機能や歌詞の内容などによって、いくつかに区分することができるが、ここでは全般的にあてはまる特徴を挙げたい。

1) イギリス起源
イギリス系アメリカ民謡は、移民が新大陸で新たに作り出したものではなく、そのほとんどが祖国の民謡を起源としている。

2)ヴァリアント
移民が祖国から持ち込んだイギリス民謡は、新大陸で歌い継がれ各地に広まるうちに、旋律や歌詞に様々な変化が加えられ、同じ旋律、あるいは同じ歌詞に基づくと考えられるたくさんの「変形」(ヴァリアントvariant)が生まれた。 旋律、あるいは歌詞のうえでの同一起源にもとづいてヴァリアントを分類することは、音楽学における民謡研究の一つの大きな課題だった。

3)音楽的特徴
イギリス系アメリカ民謡のほとんどはもともとは無伴奏で、複数で歌う場合でも和声的な音の重なりはない。いわゆる「ハモる」ことは、伝統的にはない(民俗的な宗教音楽を除く)。また、短調よりは長調の曲が多く、ドレミファソラシドの7音のうち、5音だけ、または6音だけを使う音階に基づく曲が多い。リズムに関しては、一定の規則的なパルス(ビート)をもつものがほとんどだ。

4)有節歌曲
歌詞は、1番、2番、3番、というように、いくつかの句が集って一つの歌になっており、通常それぞれの句(番)に同じ旋律が当てはめられる。 日本の歌謡曲や唱歌などにも普通に見られる、いわゆる「有節歌曲」といわれる形式である。 歌詞の各句(各番)は多くの場合4行からなる。
 移民にとって祖国の音楽は、新天地において自己のアイデンティティーを確認するうえで、また民族的コミュニティーの結束を強めるうえで、大きな役割を果す。 祖国では衰退してしまった伝統を、移民が異国において保存・発展させていくケースは珍しくない。 イギリス系アメリカ民謡は、そのよい一例といえるだろう。