紅葉
もみじ
画題
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解説
東洋画題綜覧
『もみぢ』といふ言葉には、凡そ二つの場合がある、一は紅葉で、植物の葉が紅や黄に色づくことであり、一は『もみぢ』といふ植物の名称である、『もみぢ』の語源の『もみ』は紅絹で、紅絹摺るといふ言葉とも言ひ、また燃えるといふ意だともいふ、何れにしても紅く又は黄に染まることで、『万葉』あたりには、黄葉と書いて『もみぢ』と読ませてゐる、然るに『もみぢ』といへば、直ちに槭樹、則ち鶏冠木類をさして呼ぶやうになつてしまつたのは、此の植物の紅葉が最も美しく染まる処から、斯くは『もみぢ』といふ名を此樹が独占してしまつたわけで、槭樹即ち『鶏冠木』が紅葉植物中第一に置かれ、此の名を占めたことは、祖師が日蓮に奪はれ、黄門が光圀卿の別称のやうになつたと同じことである。
さて紅葉する植物は、槭樹鶏冠木の外に、桜、梅、柿、黄櫨、漆、白膠木〈ぬるで〉、衛矛〈まゆみ〉、錦木、満天星〈どうだん〉、躑躅類、それから黄く染まるものに石榴、公孫樹、藤、赭色になるものに檞、欅、山毛欅、榎、櫟、楢などがあり、楢はいろ/\に染まる、草でも野菊、竜胆、かりやすなどの葉は美しく染まる。斯く木の葉、草の葉が晩秋美しく紅黄色に染まるのは、アントチヤンの紅葉作用であるが、唯一つ公孫樹は例外である。
さて次に紅葉の名所は、竜田川、高尾槙尾栂尾の三尾、箕面、厳島、長門峡、寒霞漢、阿波の祖谷峡、耶馬渓、日光、塩原、那須、箱根、碓氷峠、十和田湖、上高地、等名高く、摂津延命寺の『夕照楓』は日本一の老樹で、弘法大師の御手植と称せられ、天然記念物に指定されてゐる、紅葉に因む画題としては、白雲紅樹、紅葉遊鹿、楓橋夜泊、楓林停車等多く行なれてゐる。 (各項参照)
日本のものとしては、伊勢物語の宇都の山、竜田川など、花鳥画としても、山水画としても、紅葉は秋の主要な画題である名作二三を挙ぐ。
伝山楽筆 『紅楓秋草図』 京都智積院蔵
雪渓筆 『紅葉屏風』 醍醐三宝院蔵
尾形乾山筆 『紅葉白菊画賛』 大沢家旧蔵
酒井抱一筆 『紅葉流水図』 酒井伯爵家蔵
空中筆 『丹楓図』 東京帝室博物館蔵
狩野秀頼筆 『高雄観楓』 福岡子爵家蔵
横山大観筆 『紅葉』 第十八回院展出品
(『東洋画題綜覧』金井紫雲)