A1.3扇面の大首絵
-
-
「東扇」斧定九郎〈1〉中村仲蔵
絵師:勝川春章
判型:大判錦絵
出版:安永5年(1776)
所蔵:シカゴ美術館 作品番号:1930.391「絵本舞台扇」を契機に役者似顔は人気を博し、人々は「役者の顔にもっと接近したい」という欲求を持つようになります。それに応えるように生み出されたのが勝川春章による「東扇」シリーズです。これは役者の上半身をクローズアップして描く「大首絵」という手法で描かれており、この手法もまた役者絵作画の基本として定着しました。扇面の中に役者の半身像を描く方法は「絵本舞台扇」を踏襲・発展させたものですが、本作では画面も大きくなり、また扇骨を付けて扇にしたり屏風や襖の貼り交ぜに用いたりと日常的に鑑賞し易くすることで人々の目を喜ばせるよう工夫されています。
本作は「東扇」シリーズの一図で当時を代表する名優初代中村仲蔵演じる斧定九郎を描いたものです。斧定九郎は「忠臣蔵」五段目に登場する代表的な色悪(外貌は色男であるが残酷な悪人の性根を持つ役のこと)の役柄。中村仲蔵は色悪や実悪を得意としており、この図に描かれた表情はまさにそのような役柄に適した彼の特徴を、鋭く捉えて描いています。勝川春章は生涯を通し、この中村仲蔵という役者の絵を多く残しました(戸)