A1.2似顔絵の手法

『絵本舞台扇』
絵師:勝川春章、一筆斎文調
判型:大本三冊
出版:明和7年(1770)
所蔵: The British Museum 作品番号:BM-JIB0118

勝川春章が残した大きな功績として最も良く取り上げられるのは、役者の顔を似顔で描くという手法です。役者絵自体は元禄年間から鳥居清信を祖とする鳥居派の絵師らにより描かれていましたが、鳥居派の役者絵はあくまでもデフォルメされたもので、横に加えられる役者名がなければその図に描かれるのが誰であるか判然としない、様式美を重視したものでした。そのような状況の中、勝川春章は一筆斎文調と共に本作「絵本舞台扇」を発表します。扇面枠の中に役者の半身を描き、顔は役者個々人の相貌の特徴を掴み似顔で描いた本作は、「書き入れを読まなくても絵を見れば役者が誰なのかわかる」ということで人々の人気を集めます。当時一千部を売り上げ、再版も出されました。これ以降、役者の顔を似顔で描くことは当然と考えられるようになり、草双紙の挿絵にまでも役者似顔で描かれる作が登場するようになりました。(戸)