A1.4細判続絵と舞台描写

『稚児硯青柳曽我 鐘掛花振袖』
初代中村富十郎の横笛
絵師:勝川春章 判型:細判錦絵
出版:安永6年(1777) 
所蔵:V&A 作品番号:E.1277-1896

二代目嵐三五郎の西行法師・三代目大谷広治の文覚上人
絵師:勝川春章 判型:細判錦絵 
出版:安永6年(1777)
所蔵:V&A 作品番号:E.1277-1896

本作は道成寺物と呼ばれる歌舞伎舞踊作品の舞台を描いたものです。恋に狂い蛇になった女の亡霊が、彼女と想い人を引き裂いた鐘への恨みを果たすべく、鐘供養の場へやってきます。鐘供養の場は女の亡霊を恐れて女人禁制ですが、白拍子の姿で美しい踊りを見せることで僧を欺き、首尾良く潜入に成功します。描かれるのは、まさに白拍子が鞨鼓という楽器を使った踊りで僧達を欺く場面です。
絵自体に着目すると、この絵は二枚の絵が連続することで一つの大きな画面が構成されています。このような浮世絵を「続絵」と言います。役者を描ける画面が広いため舞台上の役者の絡みを楽しむことが出来、時には贔屓の役者を描いた図のみの購入もできるなど、購入や鑑賞の選択の幅が広がったことで購買層の需要にも適した形式でした。さらに大きな画面であることから役者だけで無く舞台の様子も描き込み易くなります。本作でも二枚にまたがり、舞台上部に吊される大きな鐘が描かれていることが覗えます。勝川派の役者絵は舞台の様子をも表現する優れたものでした。
本作のような細判の続絵の形式は勝川派の台頭以降定着し、「役者絵の続絵は細判」という慣習を形作りました。(戸)