A1.5役者の日常姿

『役者夏の富士』
絵師:勝川春章 書型:半紙本1巻1冊
製作:安永9年(1780) 
所蔵:中井家コレクション 作品番号:nakai0452.

勝川春章は舞台の上の役者だけではなく、役者達の日常姿をも描き出しました。贔屓の役者の普段の生活を見てみたいという心理はファンにとって当然のものであり、特に江戸では上方に比べて役者個人に対する興味が強い土地柄だったため、そのような欲求は一層強く在りました。本作のような日常姿を題材とした絵はそれに応えたものです。しかしながら、このような作品ではよく知られる舞台姿を使わずに対象の役者であることを理解させるように描く必要があり、そのためには似顔の技術が必要となります。従って、絵師にとっては自らの似顔の技術が試される場でもありました。
なお本作の題名「夏の富士」は「夏場に雪が解け地肌が見える富士山のように、白粉を落とした役者の素顔を描いている」ということを表しています。(戸)