H07戸板返し(四谷怪談)
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「神谷仁右衛門」「お岩小平ぼうこん」
English Commentary
絵師:国芳 判型:大判/錦絵
上演:嘉永1年(1848)9月28日江戸・市村座
外題:「当三升四谷聞書」
資料番号:arcUP2984 所蔵:立命館ARC.【解説】
「戸板返し」とは、「東海道四谷怪談」穏亡堀の場で、使われている「早変り」の手法。穏亡堀で釣り糸を垂れる伊右衛門の前に流れ着いた戸板に、彼によって殺されたお岩と小平の死体が表裏に打ち付けられている。この戸板をひっくり返すことで一人二役演じることができる。表裏にそれぞれの衣裳がつけられており、戸板に開けた穴から顔を出せる仕組みになっている。この戸板に菰を懸けて、戸板をひっくり返すと、顔の化粧を変えて別の人物になることができる。
民谷伊右衛門(本作では、神谷仁右衛門となっている)は、隣家の伊藤家から毒を盛らたため、恨み死にした岩と、民谷家に伝わる妙薬を盗もうとしたため殺した小平を戸板に釘づけし川へ流した。数日後、土手で釣をしているところへその戸板が流れてくる。見覚えのある戸板であると引揚げてみると、打付けられていた小平が「薬下せえ」と蠢く。慌てて戸板をひっくり返してみると、裏にはお岩が「恨めしい」と伊右衛門に腕を伸ばしてくる。
本図は、仕掛絵としては描いていないが、戸板の裏側にお岩の横顔が見えることで早変りの場であることを示唆している。(a.)【参考映像】
(YouTube)「東海道四谷怪談」
四世鶴屋南北作の生世話物である。物語は五幕ある。実話や巷談を、作者がすでに試みた舞台技巧を駆使して作り上げた。お岩が夫である伊右衛門に毒殺され、その深い悲しみと恨みからお岩は亡霊となって伊右衛門を苦しめる。伊右衛門はまた、お岩の他にも様々な人を殺し、最後には殺されてしまう。二幕目の伊右衛門の残忍さ、お岩の悲惨な死、三幕目の大道具などを駆使した亡霊の出現、四幕目の因縁話の写実と超現実的とが巧みに融合し、単なる怪談ではなく実社会を活写して人間性を描いた点が見所である。(坂)【参考文献】
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『歌舞伎をつくる』(青土社)
『歌舞伎大道具師』(青土社)
『御狂言楽屋本説〈歌舞伎の文献2〉』(国立劇場調査養成部・芸能調査室)