F3-3 白拍子花子の転成.

『京かのこ娘道成寺』

絵師:勝川春亭 判型:大判錦絵
出版:文化5、6年頃(1808~1809)
所蔵:立命館ARC  所蔵番号:shiUY0106.

【解説】
 「安珍・清姫伝説」の後日譚を描いた能『道成寺』を題材として生まれた歌舞伎の「道成寺物」のなかで、最も有名な演目が「京鹿子娘道成寺」(宝暦3年(1753)初演)である。能と同じく女人禁制の釣鐘供養の場で、女(花子)は烏帽子を被り白拍子として供養の場で乱拍子を舞う場面が描かれている。赤の振り袖姿で扇を持ち、烏帽子を被って舞う白拍子は、能と同じ姿で現れる。しかし、乱拍子が落ち着くと、烏帽子を取り去り舞台上で衣装を引き抜いて、華やかな娘踊りが始まる。最後には鐘入りし、蛇と成り果てる場面もあるが、話の構成の大半を踊りで占めているため、能『道成寺』のような話の筋は特にない。女心をテーマとした様々な踊りを能『道成寺』の枠にはめて、発端と幕切れをつけたに過ぎない構成となっており、「クドキ」として有名な「恋の手習い」や、遊郭つくし・山尽くしなど、江戸時代の日常生活や風俗の要素が次々と表れる。遠い過去の異界に去っていたはずの清姫が白拍子となって現世に蘇ってきて、現在の現実生活の中の恋する女性となり、また再び彼岸に戻っていく。舞踊曲中の白眉といってもよく、数多くある道成寺物の作品の中の代表曲となった。
 なお、本作品では、花子が五代目岩井半四郎、所化(寺僧)に三代目中村歌右衛門が描かれるが、この二人による上演記録は見付けられず、おそらく見立ての役者絵であろう。所化の数は、現在の演出では、多人数であるが、江戸時代までは初演時の通りに二人が基本であった。(中).