日本の伝説 異界展

ごあいさつ

 立命館大学アート・リサーチセンターは、文化資源のデジタル・アーカイブ研究を進める研究所として活動していますが、デジタルの世界だけでなく、日本の文化財の原物も数多く所蔵するようになってきました。センターの活動は、展覧会の開催が中心となるわけではありませが、デジタル公開だけではなく、本物の魅力にも触れてもらう機会を作っていくのも一つの重要な活動と位置づけています。本展覧会では、アート・リサーチセンターの18年間の活動野の中で収集してきた作品とともに、新規に収蔵品となった作品からも展示品が選ばれています。
 また、大学の研究機関としての重要な活動要件として、教育の意義を重視しています。本展覧会は、文学研究科文化情報学専修の院生や部日本文化情報学専攻の学生諸君が中心となって、展示作品の選定、作品解説を行ない、その一年間の学びの結果を展覧会に結びつけたものです。
 なお、デジタル・アーカイブ研究を通じて学術連携があり、日本の伝説のテーマに関連する作品を多く所蔵される舞鶴市から貴重な作品をお借りして、アート・リサーチセンターの所蔵品と一緒に皆様のお目にかけることができることとなりました。末筆ではありますが、記して深甚の謝意を表します。 主催者

展覧会概要

 日本にはたくさんの伝説が伝わり、多くの英雄が活躍しました。英雄達の多くは、私たちの住む日本、あるいは都の王土と異界との境界や境界の向こう側で、記憶に残る伝説を作り出してきました。しかし、現代はどうでしょうか。グーローバル化と情報化によって、地球上での秘境の地がなくなってしまうと、もうそこに境界上の伝説は生まれてくる余地もなくなってしまいました。むしろ、宇宙を舞台にした様々なファンタジーの世界が、現代においては描かれる傾向にあります。
 本展覧会では、異界や境界に生まれた日本の伝説のいくつかを取り上げ、その伝説が描かれた絵画作品を立命館大学アート・リサーチセンターの収蔵品を中心として展示し、考察を加えます。
 異界に対する現世・此界は、当時の日本の都、京都が中心であり、自ずと都に対峙する異界という構図ができあがります。その代表的な伝説として頼光とその四天王らが活躍する頼光説話があります。また、異界には、鬼や天狗が住んでいますが、時代とともに、境界が外へ外へと押し出されるのと同時に、恐ろしかった鬼や天狗たちが人間界に近づき、ユーモラスな姿もみせるようになります。また霊界との行き来を中心のモチーフに取込んだのが能楽でした。
 こうした境界・異界というキーワードで浮び上ってきたいくつかのテーマを並列して取上げながら、異界や境界とは日本人によってどのようなものであったのかという疑問への回答に少しでも近づいていきたいと思います。