E1-2 通俗化する天狗.
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『牛若鞍馬修行図』
絵師:歌川国芳 判型:大判錦絵(縮緬絵)
出版:文久1年(1861)
所蔵:立命館ARC 所蔵番号:arcUP4120~4122.【解説】
能「鞍馬天狗」で描かれた源義経が鞍馬山で魔術ともいうべき兵法伝授の伝説は、近世期に入ると、大天狗に僧正坊の名が付与されるようになる。本図や、E1の参考図にもあるように、僧正坊が見守る中、その部下の烏天狗が牛若丸を相手に稽古代となって兵法修行する図様が定着していく。烏天狗は、僧正坊とは異なり、嘴があり背中に翼が生えており、木の葉天狗とも呼ばれ、威力の無い天狗であり、義経に打ち負かされる図様で描かれるようになり、しかも木の葉天狗が大勢で牛若に向かう図様が多くなる。国貞〈1〉の「牛若鞍馬兵術励」などは、義経に打ち負かされるため、天狗側が剣道の防具を着けた、滑稽な姿で描かれている。これも、天狗の威力の減退傾向を示すものと言えよう。*国貞〈1〉「牛若鞍馬兵術励」(ボストン美術館)
また、近松門左衛門作の「双生隅田川」を改作した黄表紙『敵討鞍馬天狗』では、天狗に攫われて鞍馬山へ連れ去られた主人公の松之介が天狗達に気に入りられて剣術を稽古している場面がある。これは、天狗繋がりで、鞍馬山の牛若丸兵法修行の趣向を、隅田川物の松若に重ねたものであり、天狗と言えば鞍馬を出すのが言わば定着していたことを証明するものであろう。「色々の赤い天狗に白天狗、友禅染の天狗に茶返し御紋の天狗達寄り集まり」と描写しているが、「双生隅田川」の「狂女道行」における天狗の描写「赤い天狗に白天狗。友禅染の天狗達をどっと集めて招いた」を下敷ににしたものである。
*鳥居清経画・文渓堂作『敵討鞍馬天狗』(早稲田大学図書館)
なお、本作品は、縮緬絵と呼ばれるもので、通常に摺り上げられた大判錦絵を縮緬機を使って縦横斜めと圧力を掛け、表面に皺を入れて全体を均等に圧縮したものであり、もとの大判を約半分にの大きさにしている。(近a).【参考文献】
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日本随筆大成編輯部『日本随筆大成』(吉川弘文館, 1993)
小松和彦ほか『日本怪異妖怪大事典』(東京堂出版,)
飯塚友一郎『歌舞伎細見』(第一書房,1933)
勝俣隆「天狗の古典文学における図像上の変化に関する一考察」(長崎大学教育学部紀要 人文科学 (71),ppA1-A17,2005)
細谷敦仁「黄表紙『敵討[クラマ]天狗』の絵」(叢 : 近世文学演習ノート(31),pp51-61,2010>) -