ボロブドゥールの浮彫:仏伝「降魔成道」

ボロブドゥール第1回廊
8~9世紀
中部ジャワ州マグラン県、インドネシア

 上段にあらわされたのは「降魔成道」です。このお話は、棲霞寺舎利塔(中国の仏塔:棲霞寺舎利塔その2)でも紹介しましたね。乳粥と沐浴によって元気になり、心が落ち着いた釈迦は、菩提樹(ぼだいじゅ)の下で、悟りをひらくことになります。その際、悪魔たちが邪魔をしようと押し寄せる場面です。中央に坐しているのが釈迦で、左右から様々な武器を手にした悪魔の軍勢が釈迦に襲いかかろうとしていますね。左右の端にはたくさんの手に多くの武器を持った悪魔もあらわされています。結果的に、釈迦はそれらに惑わされることなく、悟りの境地に到達することになります。

 アジアを巡る仏塔の旅は、いかがだったでしょうか? 一見、そのピラミッドのような形状から、アジア各地域の仏塔とまったく異なるように見えるボロブドゥールですが、そもそもインド・スリランカ地域の仏塔と、中国の仏塔との間にも大きな違いがありました。また同一地域の中でも、さまざまな仏塔が出現していたこともわかります。いっぽう、上昇志向や、方形基壇、そして周囲の仏伝浮彫など、地域を越えた共通点もたくさん見られましたね。ここでご紹介できたのは、アジアの中の、ほんのわずかな作例にすぎませんが、仏塔の面白さに気付いていただくきっかけになれば幸いです。


◆主要参考文献
James Fergusson and James Burgess,The Cave Temples of India,London,1880.
Nicolaas Johannes.Krom,Barabudur: Archaeological Description,1927.
Rudi Badil and Nurhadi Rangkuti(ed.),Rahasia di Kaki Borobudur,Jalarta,1989.
千原大五郎『インドネシア社寺建築史』日本放送出版協会、1975年
千原大五郎『東南アジアのヒンドゥー・仏教建築』鹿島出版会、1982年
宇治谷祐顕『甦るボロブドゥール』アジア文化交流センター、1987年
宮治昭『涅槃と弥勒の図像学:インドから中央アジアへ』吉川弘文館、1992年
宮治昭『インド仏教美術史論』中央公論美術出版、2010年
杉本卓洲『ブッダと仏塔の物語』大法輪閣、2007年
向井佑介『中国初期仏塔の研究』臨川書店、2020年

◆謝辞
 このコーナーで使用した作品は、すべて担当者が撮影しました。各地域での撮影・資料収集・調査および収集データの入力・整理については、立命館大学アジア・日本研究推進プログラム「『アジア芸術学』の創成」プロジェクトの他、下記の研究助成・科研費のもと、実施しました。
・立命館大学アジア・日本研究推進プログラム「実測ビッグデータを活用した、アジア歴史文化遺産のデジタルミュージアム研究開発」および「インドネシア歴史文化遺産のデジタルアーカイビングと高精細4次元可視化コンテンツの開発」
・橋本循記念財団 平成27年度中国伝統文化に関する研究助成
・JSPS科研費 基盤研究C(課題番号:JP17K02331)

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