ビジュアル・ツアー『三国志平話』 05 呂布の破滅

【21】張飛が曹操に見(あ)う

張飛は呂布の厳重な包囲をなんとか破って、援軍を求める書状を曹操に送り届ける。曹操は呂布を攻撃するためいよいよ大軍を動かす。

『三国志平話』巻上における曹操は、劉関張の三兄弟に対して意外に好意的な側面があり、私たちにおなじみの『三国志演義』の曹操像とは異なる姿を見せます。


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【22】水もて下邳を浸し呂布を擒(とりこ)にする

呂布は下邳のまちで曹操軍による水攻めに遭って窮地に陥る。逼迫した局面を直視しない呂布に対し、配下の武将侯成は裏切って呂布の愛馬である赤兎馬を奪って逃走(やむなく最後の戦いに挑んた呂布は、とうとう討ち取られる)。

左面にいるのは、左から劉備・曹操・関羽と見えます。その射撃後の人物を関羽とすると、右面で天を仰ぐのは侯成とすべきでしょう。文字テキストでは、逃走した侯成は関羽に捕らえられ(赤兎馬は曹操のもとに帰す)、それは水攻めの最中でした。呂布をとらえたのは、直接的には張飛のようで、水攻めはその前に解除されていました。ですので、この図像の内容に合いません。この図像の題名(右端)には、「擒呂布」(呂布を擒にする)とあるが、もともとは「擒侯成」だったかもしれません。

水攻めによって城外が水没した様子を、ほそい実線と波線を重ねて表現しています。ところが、そこに胸に矢が命中した人物を描こうとすると、波線を背景に人物のフォルムがいささか見えにくくなります。そこで周囲に白い空間を用意し、人物が討ちとられた決定的瞬間を見やすく示しました。これはリアリティを失う表現かもしれませんが、白と黒のみで表現される「版画」ならではの工夫であり、非現実的な、特別な場面を視覚化する表現になっています。また左面の三人の周囲にもモクモクとした煙のような意匠が施され、人物を強調しています。現代の漫画の表現との近似を見て取れます。


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【23】曹操が陳宮を斬る

右側には曹操と劉備(玄徳)が腰を下ろし、左側には呂布とその参謀役だった陳宮が刑場に送られる姿を描く。死を覚悟した陳宮は自ら刑場へと去り、曹操の配下となってでも生きながらえようとする呂布は曹操を見ている。一騎当千の呂布は、目まぐるしく移り変わる戦局を読み切れず、刑場の露と消えた。この最期の姿もまた呂布らしい。これにて一巻(巻上)の終わり。

巻上の最後のページ(葉)に描かれた一枚。本文の量がこの紙の半分に満たなかったため、画面スペースも半分になってしまいました。しかし、右側にいる曹操と劉備、左側にいる呂布と陳宮の関係性がより明確になっているので、他の横長画面よりもむしろ整った印象があります。横長画面は絵解き芸能の実演に使われた絵巻に由来するものですが、それがやがて本になったとき、物語に応じたより多くの図像が求められ、その横幅は半分になり、後世にはそれが一般的になっていたのかもしれません。


国立公文書館内閣文庫蔵『全相平話』『至治新刊全相平話三国志』巻上

21葉・22葉・23葉の図像部分「張飛見曹操」「水浸下邳擒呂布」「曹操斬陳宮」

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