「アジアと日本の木版文化」コーナーについて

日本の印刷の歴史は古く、その始まりは8世紀末の百万塔陀羅尼にさかのぼります。その後は、摺経・摺仏、春日版を初めとする寺院版、五山版など、一貫して整板印刷(板木による印刷)の歴史を歩みました。キリスト教の伝来と、豊臣秀吉の文禄の役・慶長の役により、ヨーロッパおよび朝鮮半島から日本に活字がもたらされ、16~17世紀の短期間に活字印刷が主流となった時代がありますが、商業出版が勃興した17世紀以降は再び整版印刷の歴史を歩みます。整版印刷の歴史は、活版印刷に取って代られる明治中期頃まで続きました。

つまり、日本の印刷の歴史の大部分は整版印刷によるもの、つまり板木による印刷の歴史だったことになります。この歴史の中では、言うまでもなく夥しい枚数の板木が生み出され、運用されました。現在では、役割を終えたそれらの板木のほとんどが失われてしまいましたが、幸いにも質・量ともに参考に資する板木が現存しています。

アジアにおいて木版印刷が栄えたのは、日本だけではありません。例えば、中国・朝鮮半島・ベトナム・チベットは、それぞれ独自の木版文化の歴史を保有しています。その中でも、中国や朝鮮半島と日本には書物の交流史もあります。このコーナーでは、日本の板木が展示の大部分を占めますが、それらの点にも目配りしつつ構成し、「アジアと日本の木版文化」を追ってみたいと思います。なお、書物交流史については、次のコーナー「旅する書物」もぜひご覧下さい。

彫りの様子
 

図版はいずれも
『的当地本問屋』 享和2(1802)
国立国会図書館所蔵(207-541)

arrow_upward