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00 はじめに

 歌舞伎は、1603年、京都で産声を上げました。出雲の阿国と名乗る女性芸能者が演じた魅力的な「カブキ踊り」は、その後、男性だけが役者として出演し、踊りから狂言(寸劇)、さらには続き狂言(多幕物の芝居)へと成長を遂げ、江戸時代を通じて、大きな文化的な影響力を持ちました。
 ここでは、立命館大学図書館やアート・リサーチセンターが所蔵する歌舞伎史上の貴重な文献を紹介していきます。


01 野郎虫

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万治3年(1660) 京都で刊行。中本1冊

歌舞伎役者の評判や芸技評を記した「役者評判記」の内、現存、最古のもの。これ以前には、明暦2年(1656)に「役者の噂」という本のタイトルが伝わっているのみである。

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それまで若衆による歌舞伎が行われていたものが禁止され、成人男子(野郎)のみによる芝居の興行を条件に許可された歴史があり、したがって、「野郎」とは「役者」を指す語である。すなわち「野郎虫」とは役者を愛玩すると意味である。

これまで、稀書複製会本、天理大学図書館本などが知られていたが、本書には表紙に題簽が残っているのが新発見である。題簽題に「四条河原」の文字がみえる。また、天理本には墨書による汚れがあるが、本書では墨によってみえなかった部分も明瞭に確認できる。

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02 俳優三階興

やくしゃさんがいきょう
寛政13年(1801)刊 半紙本1冊
曲亭馬琴(著)、〈1〉歌川豊国(画)

 この時期に集中して出版される役者絵本、あるいは劇場案内書と呼べるもの。役者絵本としては、勝川春章の『夏の富士』や歌川国貞〈1〉の『役者夏の富士』の間にあって、それらに列なる日常姿を描いた絵本ということになる。


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