駕籠の前に立つ〈1〉尾上菊五郎と〈3〉大谷広次を描く。春章の落款から安永2・3年前後の作品と考えられる。この時期に二人が同座しているのは、安永2年の市村座のみであり、この年の9月には菊五郎が上坂するため、自ずから時期が限られてくる。『歌舞伎年表』の市村座の3月興行の項には「工藤供廻り大勢にて行列の出。(中略)新平を鬼王と悟り衣類を剥ぎ」という記述がある。本作の菊五郎の衣装には、庵木瓜の紋こそないが、その鬘の形から工藤と充分考えられ、広次の衣装も足軽の扮装としては妥当なところである。これらの諸条件からこの作品が安永2年3月の市村座に取材したものと考えられる。
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