立命館大学アート・リサーチセンター所蔵
浮世絵名品展 第一期 出品目録

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豊国の弟子 団扇絵 上方絵 解説へ
初代歌川国貞(大判錦絵3枚続)                  UY0110,0111,0112
「小夜衣お七 瀬川菊之丞」
「小増吉三 中村芝翫」
「(切断にて不明) 松本幸四郎」
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文政12年(1829)1月19日 中村座
もみじにしかふりそでそが
紅葉鹿封文曽我 二番目序幕
 
小夜衣お七〈5〉瀬川菊之丞、小増吉三〈2〉中村芝翫、
土左衛門伝吉〈5〉松本幸四郎
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 2枚続の左上にもう1枚続くL字型のやや特殊な3枚続であるが、国貞は単純に横や縦へと続く従来の画面処理にあき足らず、この作品のように特殊な続き方をする作品を他にも残している。一般的な横3枚続の作品に比べ、この作品のようにL字型となる3枚続は残存数が極めて少なく、やや保存状態に難はあるが貴重な作品といえる。
 取材狂言は、「曽我」の世界に「伊達騒動」そして「八百屋お七」の世界を綯い交ぜた作品。尚、国貞の師である豊国〈1〉の作品にも、縦3枚続ではあるが、同様の構図を持つ作品がある。(参考図)

歌川国芳(大判錦絵3枚続)         UY0036,0037,0038
「中山矢一郎」「真利野弥四郎」
「妾きくの」「岩田仙十郎」
「鎌田又八」
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安政2年(1855)7月10日 中村座
なにたかしまりうたじつろく
名高手毬諷実録 二幕目 坂東太郎川の場

真利野弥四郎・妾きくの・鎌田又八〈4〉市川小団次、
中山矢一郎〈2〉沢村訥升、
岩田仙十郎〈1〉中山市蔵、
行方ばん蔵〈2〉中村千代飛助ヵ
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 ここに描かれた芝居は、大久保政談を歌舞伎化したもの。〈4〉市川小団次はこの時七役を勤め、大当たりであったという。亡兄の妻と密通している万里(「利」とも)野弥四郎が、彼の悪事を知る兄の妾きくのと若党鎌田又八を殺害する場面。ここでは〈4〉市川小団次が弥四郎・きくの・又八の三役で描かれている。当時の役者評判記によると実際の上演でも、三役を早変わりで演じたという。

団扇絵

勝川春好(団扇絵錦絵)                                         UY0262
「関取幸左衛門 尾上松助」「関取長右衛門 松本幸四郎」
「おはん 瀬川菊之丞」
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寛政2年(1790)3月3日 中村座
はるのにしきだてぞめそが
春錦伊達染曽我 二番目 中田圃の段

関取幸左衛門〈1〉尾上松助、関取長右衛門〈4〉松本幸四郎、
おはん〈3〉瀬川菊之丞
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 おはん長右衛門の道行を描いた団扇絵。五十男の長右衛門と十代なかばのおはんとの、死への旅路の場面である。この上演の際には長右衛門を関取にして、道行の際に関取幸左衛門らが邪魔だてをする趣向を設けたらしく、この場の浄瑠璃を語ったのは富本斎宮太夫であった。お半長右衛門の道行図では、長右衛門がお半を背負った姿が描かれることが多いが、本図は長右衛門と幸左衛門とのたてを中心に描き、型にはまった構図をとらない点に、春好の工夫を感じ取ることができる。


三代目歌川豊国(団扇絵錦絵)                                     UY0176
「局岩藤」「中老尾上」
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嘉永5年(1852)3月3日 市村座
すみだがわついのかがもん
隅田川対高賀紋 五幕目

局岩藤〈5〉沢村長十郎、中老尾上〈2〉尾上菊次郎
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 団扇絵は、判版からもわかるとおり、大判錦絵のような一般的な浮世絵とは異なり、団扇に貼り付けて使用された実用品である。そのため、伝存点数が比較的少なく、貴重である。この作品が取材した「隅田川対高賀紋」は加賀藩の御家騒動を取り込んだ鏡山物の書替狂言だが、有名な草履打の趣向はそのまま踏襲したようである。草履打とは、お家横領を企てる局岩藤が計画の邪魔になる中老尾上を陥れようと尾上が預かる重宝を盗みだし、宝を紛失したと尾上を草履で打擲する趣向で、敵役の憎々しさとそれに堪える辛抱役との緊張した場面をつくり、古来から好んで芝居に仕組まれたもの。

上方絵

北英(大判錦絵)                                          UY0013,0014
「犬飼見八 片岡市蔵」
「犬塚信乃 嵐璃寛」
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天保7年(1836)1月 大坂 中座
はなあにつぼみのやつふさ
花魁莟八総 芳流閣の場

犬飼見八〈1〉片岡市蔵、犬塚信乃〈2〉嵐璃寛
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 曲亭馬琴作の読本『南総里見八犬伝』を原作にした歌舞伎芝居に取材したもの。里見家の宝刀村雨丸を滸我の館へ持参した八犬士の一人犬塚信乃は、村雨丸が偽物とすり替えられていたために間者と疑われ、滸我の家臣であった同じく八犬士の犬飼現八と高楼の芳流閣の屋根の上で血戦する場面である。この場面は立ち廻りが激しく、当時の役者評判記によると大変好評であったという。また芳流閣の場面は構図的にも面白いためか、江戸・上方絵を問わず数多く描かれている。

芳滝(大判錦絵)                                               UY0005,0006
「義玉士 里見八犬伝」「犬川荘助」
「忠玉士 里見八犬伝」「犬山道節」
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文久年頃 (見立)

犬川荘助〈1〉実川延三郎、犬山道節〈3〉嵐吉三郎
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 描かれている役者の似顔から犬川荘助が〈1〉実川延三郎、犬山道節が〈3〉嵐吉三郎と判断できる。だが、両優がこれらの役名で共演している上演記録がみつからないため、おそらくは理想の配役として描かれた見立絵と思われる。芝居の中には、里見家の宝刀村雨丸を奪った網干左母次郎を追う荘助と、敵である荒藤を討つために村雨丸を必要とする道節が円塚山で偶然に出会い、一瞬斬り合う場面がある。この絵は二人の八犬士が暗闇の中で立ち廻るその瞬間を捉えた構図的にも面白い好作品である。

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