新藤茂氏の『五渡亭国貞ー役者絵の世界』によると、このシリーズは国貞の落款から文政6年に刊行された作品であると考証されているが、文政3年から上坂していた岩井半四郎が文政5年11月に約2年ぶりに江戸へ帰ってきたことや、父半四郎に同道して大坂に赴いていた岩井松之助が文政5年11月の森田座で岩井紫若と改名することなどから考えても、この新藤氏の説が肯定できる。画中に「春狂言稽古の図」とあるように各作品とも書抜きを手にして稽古をする普段着の役者達を描いており、それぞれを「曽我」の世界の主要な人物に見立てている。各図とも番号が入っており10枚前後の組物と考えられる。
右から1枚目の半四郎は、烏帽子や庵木瓜の紋の入った大紋、そしてそこに添えられた短刀と富士の狩場の切手の木札から、見立て工藤祐経であることがわかる。2枚目の幸四郎は、百日に車鬢の鬘、鎧に墨の衣、そして薙刀から見立て悪七兵衛景清であることがわかる。3枚目の紫若は、世話がかった鬘や、守袋、木瓜の紋の入った小袖などから見立て十六夜であることがわかる。十六夜は曽我家の家臣鬼王新左衛門の妻、月小夜の妹。
|