B5-3 近世期の静御前

「義経一代記図会」
編著者:松園梅彦(序)、鈍亭魯文(作) 絵師:歌川広重 
判型:中本 出版:安政3年(1856)
所蔵:大英博物館 作品番号:JH366.

【解説】
 本作は『義経一代記』を題材とした絵本、『義経一代記図会』の一部である。右頁には源義経と静御前、左側には佐藤忠信と荒法師覚範が描かれており、それぞれに吉野の山中で義経と静が別れたこと、忠信が義経に代わり覚範を討ち取ったことが記されている。
 強風により西国に逃げることが叶わなかった義経は、静以外の妻妾を都に送り返した。その後静と忠臣達と共に吉野山に隠れるも状況は芳しくなく、義経はここまで連れてきた静を都に帰すことに決める。形見の品々を手に義経と別れた静はその後、舞の素晴らしさを理由に捕らえられ都に送られたのち、鎌倉へ向かうこととなる。
判官物と呼ばれた源義経に関わる歌舞伎や人形浄瑠璃が盛んに上演された近世期には、同じく源義経を題材とした草双紙や読本もまた多く出版された。源義経にまつわる物語が愛されたこの時期、義経を愛した女性としての静御前の物語もまた広まっていくこととなる。 (川)