B1-2 仏御前
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「小倉擬百人一首」 「十二」「僧正遍昭」「白拍子仏御前」
作者名:歌川広重 判型:大判錦絵
所蔵:UPS Marega 作品番号:MM0638_12.
画中文字:「あまつ風雲のかよひ路ふきとぢよ 乙女のすがたしばしとゞめむ」「清盛公白拍子祇王を愛す事限りなし 爰に加賀国に仏といへる舞妓あり 西八条に来りて入道にまみゆ 清盛深く是を愛て祇王が寵は衰へたりとぞ 種員筆記」【解説】
まずこの小倉擬百人一首とは百枚揃の連作で弘化初年の伊場仙の板行。豊国、国芳、広重三人の合作であって堅大錦判の上を仕切って小倉百人一首の歌と絵詞を記し、それに見立てて下方にいろいろな史話伝説を描いたものである。今回掲示した絵に描かれている歌は「あまつ風雲のかよひ路ふきとぢよ 乙女のすがたしばしとゞめむ」で作者は僧正遍照。現代訳は【天に吹く風よ、天女が帰っていく雲の中の通り道を吹き閉ざしてくれ。天女の美しい舞姿を、もう少し地上に留めておきたい】である。
画中文字には清盛は白拍子祇王を寵愛していたが、加賀の国の仏という舞妓が西八条に清盛に目通り、清盛は仏を愛で祇王の寵愛は衰えた」とある。舞によって清盛の寵愛を奪った仏御前と、美しい舞姿をもう少しだけ留めていてほしいという意味のこの歌が舞という共通項で呼応する形として描かれているのだろうと考えられる。
これによっても仏御前の印象というものは舞によって寵愛を奪った者ということが広く認識されていたんだと感じられる。 (窪)
謡曲/能では「仏原」として三番目物、大鬘物、大小物として継がれている。作者は不明で内容は都方から立山禅定のため北陸路を下った僧たち一行は加賀の国仏の原までやってきた。とある草堂に宿ろうとしたとき、一人の女が現れた。今日はこの国から出た白拍子仏御前の命日にて、読経してほしいといい、女は僧の請うままに仏御前について話した。ここから仏御前が清盛の寵愛を祇王から奪い、祇王はそれを愁いて出家した。しかしその後、その凋落はいずれ我が身と感じた仏御前もまた髪を剃って出家した物語を語る。やがて女はこの草堂の主は仏御前だといって姿を消した。僧が回向をし、仮寝の夢を結ぶと在りし日の舞女の姿で仏御前が現れ、舞の袖を返し、「一歩挙げざる前をこそ仏の舞とはいふべけれ」と言い捨てて消え去るというものである。
近松門左衛門の浄瑠璃「仏御前扇軍」では仏御前は物語の中心として役割が課されている。
この物語で仏御前は源氏の第一の重宝である名剣小烏を清盛に渡さず、牛若丸に渡そうと逃亡していたがあえなく武藤有国に殺された渋谷胤俊の義理の娘として登場する。渋谷胤俊は仏御前の夫である渋谷正俊の父であった。そして小烏の行方を捜し敵を撃つため色に耽る清盛のもとに白拍子仏御前として向かうこととなる。その後本流の平家物語と同じく門前払いを去れそうになるが、祇王によって執成され舞を舞ったところ、寵が移り目論見通り清盛の傍に侍ることとなる。仏御前が床に臥せっていると、重盛が魑魅鬼神を退散させるという小烏をもって宿直をすると申し出る。仏御前は夫である正俊にそれを知らせ、襲撃の手はずを整える。正俊が矢を射かけ何かに命中したが、重盛の人を呼ぶ声に仕損じたと知る。正俊は有国を切った末捕らえられる。正俊が射かけたのは仏御前であった。重盛の話から小烏を奪い、夫の父である渋谷胤俊を殺した武藤有国が父であると知った仏御前は自分が父の身代わりになれば夫の武道もたち母の遺言も守れるとの考えであったが死にぞこない泣くばかりであった。重盛はそれぞれに理があると見て取り、運に任せた勝負をさせる。源平婿舅の対決となるが正俊は有国の首を切りおとした。そして正俊と仏御前の夫婦には天下の正道を解き、夫婦の髺を切って獄門に晒せと投げつけ夫婦はもはや死身となり、こもにまきすてよと命じた。
娯楽性が強まったことによって仏御前にたいして多くの役割が附与されている。これは仏御前が自らの力のみで成り上がり、目的であった清盛の傍に侍るということをやり遂げたことから物語を回す役割をあてられているのではないだろうか。川柳ではやはり寵愛を奪った者であることを揶揄したものが多い。
・かん病に仏御前は手がほめき
・てうはんを仏御前は見たといふ
・仏御前は重盛へ住む気なり
・仏御前はけころかとむごいやつ
・さなきだも知らぬは仏御前也
・仏御前の肌も清盛【参考文献】
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・百人一首の風景 http://www.hyakunin.stardust31.com/1-25/12.html (2017/12/07 11:28)
・仏原 『能狂言事典』P.135
・近松門左衛門『近松全集』浄瑠璃「仏御前扇軍」P.275-399
・『新編川柳大辞典』P.730
・『雜俳語辞典』P.877
・『浮世絵事典』P.198 -
- 投稿日:
- by 8P
- カテゴリ: B 源平合戦の女たち,B1 清盛と女たち
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