B3-1 義経と浄瑠璃御前の出会い
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「奥州浄瑠璃源氏十二段」
絵師:歌川貞秀 判型:大判錦絵
出版:未詳(1850~1860年頃か)
所蔵:国立国会図書館 作品番号:本別9-28-06-039~041.【解説】
歌川貞秀による3枚組の錦絵。矢矧の長者館を覗き見た牛若丸が、見事に琴を奏でる浄瑠璃御前に惹かれ、思わず笛を取り出し和する場面である。姫はその笛の巧みさに聞きほれ、女房をやって様子を見に行かせる。はじめ義経を見た女房が庭先から金売吉次の下人だと蔑むが、牛若丸の噂を聞き及んでいた浄瑠璃御前はまた別の女房を遣わす。ただ人ではないと悟った姫は七度も使いを遣り、牛若丸を交えて管弦に興じる。その後名残を惜しみつつ牛若丸は館を後にするが、姫が忘れられず女房十五夜の手引きで忍び入る。右の面の奥の座敷で琴を弾いている人物が浄瑠璃御前、左の面の笛を吹いている男性が牛若丸である。右の面手前の屋敷の軒先から外を見ている女性と、中央の面の明かりを持ち、門の向こうを伺っている女性が浄瑠璃御前の女房であると思われる。
浄瑠璃御前が屋敷の奥まった場所に描かれており、物語中に浄瑠璃御前は外の白砂を踏んだことさえないと記述されているとおり、深窓の姫君であることが伺える。
この作品では浄瑠璃姫をはじめ、女性は髷を結い、小袖を着ているが、絵巻や奈良絵本に描かれている女性は皆髪を垂らし、単に袴姿である。時代が下るにつれ、装束もその時代に合わせて表現されるようになったのではないかと推測される。【画中文字翻刻】
こゝに長者のひとり女子 浄るり姫は お薬師のもふし子だとて そこで名を浄瑠理光如来をかたどつてつけたあゝゝゝげな おつなお名だへ ともしあぶらがきれたやら 月をあかりに琴引きやアる その時おもてゞ笛をひやろ/\/\ ふう そこで内から 女子達よつて門のうちから大ごゑ おつはつて あんまよ あんまとよばはりたり 心ついたる一人の女子が しをり戸あけてげへにびつくり これはアちがふた あんまぢやないぞよ 御曹子にておはします 粗忽なりけるしだいなるに 御曹子は少しべゑ わらひがほしめされて門の内へぞ入りたまふ
【補足説明】
牛若丸の様子を伺う女房の名は写本によって異なり、はじめ庭先から伺う女房は文殊の前または玉藻の前、牛若丸を案内する女房は弥陀王御前または十五夜である。文殊の前は実は平家方の者であり、身元不明の牛若丸と契ったうえ吹上の浜まで駆けつけたことを母から非難され屋敷を出て弱り果てている浄瑠璃御前に牛若丸は秀衡の婿となったと讒言し、自害へと追い詰めた。玉藻の前は牛若丸を見て恋に落ち、わざと浄瑠璃御前に牛若丸を卑しい下人と報告する。浄瑠璃御前物語に登場する牛若丸の笛はたいとう丸または蝉折であり、たいとう丸は「御曹子島渡」という御伽草子に、蝉折は平家物語四巻「大衆揃え」、舞曲「烏帽子折」に登場する。
「御曹子島渡」の内容は以下の通り。藤原秀衡のもとにいるころ、千島という鬼が住む島の喜見城かねひら大王が持つ日本を思いのままにするという大日の法という兵法の噂を知り、これを得ようとする。途中の蝦夷ヶ島、千島ではたいとう丸を吹くことで敵を感心させ、難を逃れる。大王の娘あさひ天女と契りを結び、彼女は命をとして父から兵法を奪い牛若丸に授ける。このエピソードは浄瑠璃御前物語の最後でも触れられている。浄瑠璃御前物語と同様に牛若丸が笛の名手であることを強調するとともに、笛が物語の重要な小道具となっている。
「烏帽子折」では蝉折は常盤御前が牛若丸のために買い取った弘法大師由来の笛と紹介され、「大勢揃え」では蝉折の名の由来や所有していた高倉宮が三井寺に奉納している。(山)【参考文献】
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信多純一、坂口弘之『古浄瑠璃 説教集』(1999、岩波書店)
信多純一『現代語訳 完本浄瑠璃物語』(2012、和泉書院)
市古貞次校注『御伽草子 日本古典文學大系』(1958、岩波書店)
市古貞次校注・訳『平家物語① 新編日本古典文学大系全集45』(1994、小学館) -
- 投稿日:
- by 8P
- カテゴリ: B 源平合戦の女たち,B3 浄瑠璃御前
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