酒呑童子の説話は、草子や絵画など紙媒体で表現されるだけでなく、早くから演劇にも取り込まれた。能の「大江山」は、頼光伝説の内、大江山に鬼神退治に出かける「酒呑童子」の物語に焦点を当てる。登場する人物が10名を超える大がかりな曲で、むしろワキ方となる頼光らが躍動する。退治される鬼神には恐ろしさがなく、あっさり騙されてしまう人間味すら感じられる。なお、頼光伝説に取材した能楽作品は、他に、「土蜘蛛」「羅生門」がある。(A)
「能楽百番」は大正11年(1922)から大正14年(1925)にかけて刊行された全102点からなる能絵の揃物で、絵師の月岡耕漁(1869~1927)は、「能楽図絵」、「狂言五十番」など能絵を多く描いたことで知られる。本作「大江山」では前場における少年の姿をした酒呑童子(前シテ)、その背後に控える侍女(子方)を描く。頼光らの前に現れた酒呑童子は一行が館に立ち寄った理由を問い、頼光との問答が展開される。やがて童子は、自らが比叡山を代々の住家としていたところを伝教大師に追われ、全国各地を流転した末に大江山に行き着いたことを告白する。
能「大江山」は、曲の成立にあたって現存最古の絵巻「大江山絵詞」(逸翁美術館所蔵)との関連や、 後の絵巻の本文に影響を与えた可能性が指摘されている。立命館大学アート・リサーチセンターが所蔵する『酒呑童子』(ビゲロー本)も、酒呑童子が自らの境遇を語る場面(3-12)や頼光一行が酒肴でもてなす場面の詞書(3-19)に能「大江山」の詞章の影響が色濃く見える。(I)
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