2.1 笠はさまさま三度いせかさ(nakai1222)赤本

 赤本は、子供を対象として、絵と簡単なひらがな主体の文章で成り立っており、浅草紙(再生紙)を使用した5丁の中本である。『お江戸の意外な「モノ」の値段』(1)によると1冊が10文ということである。江戸時代の物価と現在のものとの比較には諸説があるが、そばが一杯が16文であり、廉価なものであったことがわかる。

 『日本古典文学大辞典』(2)には、「遺存する赤本は稀少で(中略)内容を知りうるものは複製を含めて五十部程度。しかも殆どが不完全本で、赤本と断定できないものがある」とある。(鈴木重三・木村八重子記)子供向けのもので使い捨てであったこと、関東大震災・第二次大戦の空襲で失われたこと等が考えられる。これらのことから、当文庫のものは、非常に貴重であると思われる。

 当文庫の赤本はこの1点であるが、稀書複製会の復刻版(3)には、『さるかに合戦』 (nakai3413)、『文福茶釜』(nakai3516)、『枯木に花さかせ親仁』(nakai3718)等、5点がある。当文庫が所有する復刻版は第4期以降であるが、第1期に2点の赤本がある。これらの底本が現存しているかどうかの疑問がある。