D08九代目団十郎のライバル

「寺子屋首実見之場」
English Commentary
絵師:国周 判型:大判/錦絵3枚続
上演:明治29年(1896)3月6日東京・明治座
外題:「菅原伝授手習鑑」
資料番号:arcUY0333~0335 所蔵:立命館ARC.

【解説】
 劇聖と呼ばれた団十郎も権十郎時代の一六、七歳の頃は普通の人にも劣るほどの大根役者で、健康はすぐれず、いつも顔色は悪く、「青瓢箪」とあだ名されるような頼りなさであった。一方、そのライバルに五代目尾上菊五郎がいる。菊五郎は、市村座の御曹子であり、初舞台の時から「栴檀は双葉より香ばしく、せりふまわしも開語よく、成人ののちはひとかどの役者になるに疑いなし」と期待されるほどであった。二人は生涯宿命のライバルとして競い合ったが、性格は正反対で、団十郎は我慢強いのに対し菊五郎は短気であった。また、団十郎は、細かなことには気を配らず、菊五郎は隅々まで工夫し、計算し尽くした演技をした。
 こんなエピソードもある。菊五郎と団十郎が明治座で「寺子屋」を出したとき、玄蕃役をやっていた団十郎の弟子をつかまえて、「まずいまずい。もっとよく教えてやったらよかろうに」と菊五郎が言うと、団十郎は「いくらまずいからと言って、下手な者は仕方がない。できないやつに教えたって無駄だ」といって知らん顔をしていたという。「人は一度に詰め込んだからと言って急に上手になれるものではない。当人にさえ腕があればいつかものになる」と思っているが故の反応であった。本図は、このエピソードに当る上演時に出版された役者絵である。(a.)

【用語解説】