G04観客の様子

『花江戸三芝居 客者評判記』
作者:式亭三馬 絵師:国貞〈1〉判型:半紙半裁横本
出版:文政6年(1811)1月江戸
資料番号:hayBK03-0806 所蔵:立命館ARC.

【解説】
 芝居通であった三馬が当時の八文字屋の役者評判記の体裁・構成にならって、役者ならぬ「観客」を講評したもの。遊里の客の評判を芝居の客に置き換えて、評判記同様、横本仕立てで、巻頭にはわざわざ八文字屋自笑の序を置いている。芝居見物左衛門という人物が頭取(司会)になって評される。
 以下、例をあげてみる。
「座贔屓」
狂言ごとに、良し悪しの差別なく、いつでも自分の贔屓する芝居の話をして、その芝居座を贔屓するのを座贔屓という。
座贔屓を見ていくと、自分の贔屓している役者、芝居、座を盲目的に追ってしまう姿が伺える。これは現代においても、自分の好きな俳優を盲目的に追ってしまうことに通じる部分がある。
「身振好」
これは芝居好きな人々の中でも特に物好きな人々である。玄人とよばれる人々は身振り師といって、芸者、素人とは評判を別にする。役者のくせをすぐに見抜いて自分のものにしてしまうのが重要である。身振好は、役者のくせをすぐに吸収して、ちょっとした茶番を行ったりしていたそうだ。これは、芸能人のマネをする現代の風潮にも通じるところがある。
 他にも、特定の役者をおいかけて、その役者の舞台は必ず観劇する「贔屓之常連」や、客席で眠り込んでしまう「居眠好」など、観客が各々のスタイルで歌舞伎を楽しんでいたことが如実にあらわれている資料だといえる。客が見る、役者が見られるという関係を考えさせられる。
 また、役者から客へ視点をうつしているのに面白みを感じる内容がとても興味深い。
 なお、本書は、表紙見返しに売出し時に本を包んでいる袋紙が貼りつけられており、貴重である。(塩)