F02鳴物
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「守田座普講出来惣凌ノ図」
絵師:豊国〈3〉 版型:大判/錦絵3枚続
出版:元治1年(1864)5月江戸
資料番号:arcUP5366,5367,5368 所蔵:立命館ARC.【解説】
鳴物は囃子方が担当し、様々な楽器が使用される。代表的な楽器は、大太鼓・四拍子(太鼓・大鼓・小鼓・能管)・篠笛である。黒御簾の中では鳴物は全て立って演奏される。
大太鼓
張太鼓や鋲打太鼓とも呼ばれる。この楽器は先行芸能である能楽にはなく一節によると、武家の陣太鼓から取り入れられたのではないかと言われている。もともと歌舞伎小屋には戦国時代の城郭をまねたような櫓が設えてあり、しだいに櫓が歌舞伎興行のシンボルとなった。大太鼓はその櫓の上で演奏されていたこともあり、そのような説が出た。
大太鼓の直径は90センチほどで、樫材でできた長さ30センチの「太撥」や太鼓の直径と同じ長さの「細撥」などを使って演奏され、演奏者は太鼓の縁側を叩いて高音、中心部分を叩いて低音というように音を出している。大太鼓に向かって正面から打つのではなく、向かって左斜めに立って打つ。大太鼓には定まった曲や曲譜がなく、「アシライ」と呼ばれる、その場の雰囲気にあわせた柔軟な演奏が求められる。表現する音は多岐にわたり、雨音、風音、水音、雷鳴など様々である。雷鳴などはその音そのものを表現するのに対し、雨音は"パラパラ トントン"と「雨戸にしずくがあたる音」を、風音は"ガタガタ"と「雨戸や障子が風で揺れる音」などその音そのものではない音を表現することもある。
大太鼓は上演中だけではなく、劇場の一日の進行の合図としても重要な役割を果たす。江戸時代には「一番太鼓」と呼ばれる太鼓で開場が知らされた。この「一番太鼓」は正式に打つと約10分間かかり、新米の囃子方の腕を鍛えるために行われていたとも言われている。その後も、第一幕に出演する役者が全員到着したことを知らせる「着到」、一日のプログラムの終了を知らせる「打出し」など、様々な場面で使用されていた。
四拍子
四拍子は能楽を踏襲したもので太鼓・大鼓・小鼓・能管が含まれる。太鼓は使用頻度が高く、細く軽い撥を使って祭り囃子などを演奏し、大鼓は下座の中に2つあり、2人で演奏される。小鼓は、下座と上手に一つずつ配置し谺(エコー)をしたりする。能管はその名の通り能楽で使用される笛で、鳥の鳴き声のなどを表現するのにも使われ、能管だけで、鷹・雁・鳶・カラス・鳩などの鳴き声を表現することができる。また、大太鼓とともに、幽霊の効果音でおなじみの「寝鳥合方」と呼ばれる"ヒュードロドロ"演奏するのにも使われる。
篠笛
竹笛ともいい、歌舞伎独自の下座音楽としては能管よりも多く使われる。三味線の調子に合わせて演奏するので、走者は調子の異なった12本の笛を使い分けなければならない。調子の高い笛ほど細く短い。
生音
情景描写ではなく、役者と絡んで重要な演技をすることから「役物」とも呼ばれる。歌舞伎の舞台と調和させるために本物の音ではなく「らしい音」を出すために、擬音笛を使用し、ウグイスや虫などの鳴き声を表現したりする。ほかにも、犬の声を人間が真似したり、蛙の鳴き声をだすために赤貝の表をすり合わせたり、大きいそろばんのような「雷車」をつかって雷鳴を表現するなど、「らしい音」を出している。(城)【参考文献】
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『歌舞伎音楽入門』(音楽之友社)
『歌舞伎の下座音楽』(演劇出版社)
『音で観る歌舞伎 ー舞台裏からのぞいた伝統芸能ー』(新評論)
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