E05市川家の隈取

『市川秘伝隈取図巻』
著者:七代目・八代目市川団十郎 版型:大本1冊
出版:大正7年(1918)4月 再版
資料番号:arcBK01-0135 所蔵:立命館ARC.

【翻刻】
江戸大歌舞伎荒事始 元祖市川団十郎才牛
以工夫紅粉付面隈取 此隈一々口伝子孫譲

【解説】
 隈取とは、単に「隈」ともいい、歌舞伎独特の化粧法である。顔面の筋肉や骨格や血管を誇張して表す。隈取は、延宝元年(1673)初代市川団十郎が14歳の時に、紅と墨とで顔を隈取り江戸中村座で「四天王稚立」の坂田金時に扮したことに始まるという。その後、二代目市川団十郎がぼかしなどの工夫を加えていった。
 中国古典劇の臉譜から影響を受けたともいい、不動明王像や仁王像といった憤怒形の神像の影響も指摘されている。また、当時流行していた金平浄瑠璃の首(かしら)に倣ったという説もある。
 ここに掲出する『市川秘伝隈取図巻』は、七代目市川団十郎が絵を描き、八代目市川団十郎が文を書いた市川家伝来の21種の隈取を収めた図巻である。序文には嘉永5年(1852)の年記が入る。各図には、隈取を考案した役者の名前や、その役名も記されている。 本図は、初代団十郎が工夫した隈取で、「筋隈」と呼ばれている。
 arcBK01-0135_006.jpgこれにボカシを加えたのが左図の二代目の工夫した「筋隈」である。ボカシは、庭に咲いた牡丹の花びらをみて思い付いたと言われているが、二代目は初代より柄が小さく、ぼかすことで顔を大きく見せようとした工夫だったという。
 なお、本書は、大正3年(1914)に演藝珍書刊行會から複製されたものを大正7年(1918)に再版したものである。(a.)

【用語解説】