E2 天狗になった天皇.

 天皇の位まで得たにもかかわらず、悲憤のあまり天狗になった人物がいる。第七十五代崇徳天皇、その人である。白河法王亡き後、鳥羽上皇が院政を敷くなか、寵愛する得子の子・体仁親王(近衛天皇)を即位させるために、崇徳天皇を譲位させる。近衛天皇は、崇徳上皇の弟という位置付であった。病弱だった近衛天皇が17歳で崩御すると、後白河天皇が即位する。鳥羽法皇が崩御すると、保元の乱が勃発し、崇徳院側は敗北し、崇徳院は、讃岐に配流となる。崇徳院は鳥羽院の子とされているが、実は鳥羽天皇の祖父である白河天皇の子。鳥羽天皇は崇徳院を「叔父子」と呼んだ(鳥羽院の父である堀河天皇の弟で、叔父であったため)。
 崇徳院は、後生菩提のために五部大乗経を指の血で書き上げ、 これを都に届けてくれと実弟の仁和寺御室の覚性法親王に送ったが、入道信西の進言によって拒否された。 崇徳院は怒り狂い、髪も剃らず、爪も切らず、生きながら天狗の姿になったという。
 天狗になった天皇がいた一方で、政争に敗れて、貴族でありながら雷神となった人物もいる。藤原時平に敗れて、太宰府に流された菅原道真である。いずれも、配流されて海という境界を越えたことで、異界の向こう側の存在となったのだ。(大a).

【参考図】
「百人一首之内 崇徳院」(大英博物館 1906,1220,0.1232)