F1-4 能面「般若」.

「般若」

所蔵:立命館ARC  所蔵番号:arcMD05-0002.

【解説】
 嫉妬と恨みを極限まで高めた女性が変化した怨霊の面である。名称の由来は諸説あるが、般若坊によって創作された面であるためにこの名を持つと伝えられる。怨霊の面であることをその形相で表すように、額には金泥を塗った二本の角が突き出し、頭髪は乱れ、しかめた眉の下は、化生を現す金色の目を持っている。口は口角を上げ、二対の牙を持つ。しかし、その額には細長く優しい眉が描かれており、眼を起点とした上部には深い悲しみを、下部には激しい怒りを表す工作が施されているとされ、女性の持つ二面性を強く表している。
 また、彩色は白身がかった肉色、ふつうのもの、濃い肉色があり、白みがかった物は白般若、濃い肉色の物は赤般若とも呼ばれる。多くの場合、白般若は高貴な人物で、本作はこれにあたる。赤般若は下賤、卑俗な人物に用いられ、憎悪の度合いを表現することも多い。『葵上』の六条御息所は白般若、『道成寺』の白拍子は普通の肉色、『黒塚』の女は赤般若を用いることが多い。

 般若面は蛇面から分化したとも言われ、謡曲が発展する過程で、そもそもの始まりが移ろいゆく女性からの変化、怒りを以て化生となる女性の姿を現すために作成された面であるともいわれる。般若面は、顰面、蛇面といった生まれながらの化生を現すものではなく、悲しみと怒りを持った、女性の二面性、あるいは変化せざるを得なかった女性の表情を表している。(柴).