F1-3 能面「泥眼」.

「泥眼」

所蔵:立命館ARC 所蔵番号:arcMD05-0001.

【解説】
 白目の部分に金泥が注がれていることから「泥眼」の名が付けられた。金具や金泥によって目が金色に施されている能面は、この世の者ではない超自然的な存在ということを表している。泥眼はもともと、「当麻」や「海人(海士)」など、女が菩薩となる役に用いられていた。しかし、乱れた添え毛や金泥が施された歯が覗くやや口角を引いた口などが、表情に妖しい凄みを与えており、後に嫉妬の炎を内に込めた女性に用いられるようになった。
 この面が用いられる代表的な謡曲が、六条御息所の生霊が登場する「葵上」である。皇太子である夫に先立たれたことで中宮への道を完全に断たれ、唯一の心の癒しであった光源氏にも冷淡な態度を取られてしまう。そんな中、車争いで自分に恥をかかせた女が光源氏との愛の結晶を身籠った。光源氏への未練、葵上への恨み、そして嫉妬。心にため込んだ屈折した思いが噴き出した時、女は生きながらにして霊となり、葵上をとり殺しにかかるのだった。
 能の中盤、御息所の生霊を討つため比叡山の高僧が登場すると、泥眼は般若(→F1-4)へと変化し強大な霊力でこれに対抗する。(三).