F1-2 対峙する二人の巫女.

『能楽図絵』「葵上」

絵師:月岡耕漁 判型:大判錦絵
出版:明治30年(1897)
所蔵:立命館ARC  所蔵番号:arcUP0874.

【解説】
 明治時代の能画家・月岡耕漁が能「葵上」の一場面を描いたもの。作品左に描かれた小袖は病床に臥した葵上を表しており、この葵上を挟んで生と死の境界が分かれている。車争いの一件で鬼女と化した六条御息所は、光源氏の子を身籠った葵上をとり殺そうと枕元に立つ。それに対峙する形で描かれている巫女姿の女性は照日の神子(みこ)といい、葵上の命をこの世に繋ぎ止めるべく呪術を以って鬼女に対抗する。この照日の神子は、原作『源氏物語』には登場しない謡曲独自の存在であり、「照日」とは「天照大神」に仕える女性宗教者を意味する。『源氏物語』の中で、娘が伊勢の斎宮に任命された六条御息所は、娘と共に伊勢へ下向し、その後神事の世界に足を踏み入れていく。御息所が赴いた伊勢神宮。そこに祀られる神こそ天照大神である。照日の神子と六条御息所。天照大神に仕える二人の女性が、一方は巫女として、もう一方は鬼として人間界と霊界の狭間で対峙する様子が描かれている。(三).