A1-2 土蜘蛛と葛城山

能楽百番』 「土蜘蛛」

絵師:月岡耕魚 判型:大判錦絵
出版:大正13~15年(1924~1926)
所蔵:立命館ARC  所蔵番号:arcUP1415.

【解説】
 明治時代の能画家・月岡耕漁が能「土蜘蛛」の一場面を描いたもの。この作品は前述した「頼光館の土蜘蛛」を題材とした作品であり、頼光によって一太刀を浴びた土蜘蛛が葛城山へと逃げ帰り、そこで追ってきた独武者と相対する場面が描かれている。
部下を引き連れ葛城山へとたどりついた独武者は、現れた鬼神と相対する。土蜘蛛の精魂であると名乗り、鬼神は一派に向かって糸を投げかける。この作品において描かれているのはまさにこの瞬間である。本来投げかけられるのは単糸であるが、舞台上での見映えを良くするために金剛唯一が工夫し、細かく切った紙を多重に投げつけることが主流となった。

葛城山は天皇と非常に関わり深い土地である。代表的なものとしては『古事記』下つ巻において雄略天皇が一言主と共に狩りを楽しんだ場所であることが挙げられる。能「土蜘蛛」において葛城山が登場するのは『神武紀』に土蜘蛛と称する土着民族を神武天皇が征伐し、その村を葛城と変えたとされる伝承に関連がある。この点より見ると、葛城山は神と天皇を同等とする、あるいは天皇による異民族の排除など、境界の設定に大きな役割を果たしていることが見て取れる。(新)