A1-1 前哨戦としての土蜘蛛退治.

『頼光四天王土蜘蛛退治』

絵師:勝川春亭 判型:大判錦絵3枚続
文化後期(1810~1817)
所蔵:立命館ARC  所蔵番号:arcUP3990~3992.

【解説】

 土蜘蛛は、記紀の時代には、奥州から九州に至るまで広く存在していた皇命に従わない異形の民を指していた。特に九州に多く、通常は、洞穴の中に住む未開の民であり、朝廷に征討されていった。
 こうした王権確立記の異人退治伝説と、強力な王権が下降線を辿りはじめて生まれる王権説話としての頼光説話とが結びつき頼光の土蜘蛛退治伝説が成立する。異界の妖怪として土蜘蛛の姿が定着する。そして、能や歌舞伎にも取り上げられて大いに人口に膾炙した。
 病に苦しむ頼光の枕元にすり寄ってきたのは、七尺ばかりの大法師。頼光は、とっさに枕元の膝丸を抜いて切付けると、姿を消した。その後を独武者の保昌が追っていくと塚の中に土蜘蛛が潜んでいる。従者を率いた保昌らは、土蜘蛛を塚から引出し成敗する。酒呑童子討伐の前哨戦とも言うべき土蜘蛛退治は、こうして実行される。
 能の「土蜘蛛」では独武者平井保昌がシテの土蜘蛛に対するワキとして土蜘蛛に対抗し、従者を引連れていく。したがって、本図のように、四天王に加えて保昌が参加しているのが正しい。北斎は、『画本魁』で、保昌一人が土蜘蛛と戦う姿を描いている。
 一方、春英には「坂田金時 土蜘退治之図」があるが、この構図を中央に配して四天王、独武者の土蜘蛛退治を描いたのが国芳の「源頼光の四天王土蜘退治之図」である。知名度では、「源頼光公館土蜘作妖怪図」であるが、作品の完成度としてはこちらもひけをとらないであろう。(a).
 
*北斎『画本魁 初編』(MET 2013.733) 
*春英「坂田金時 土蜘退治之図」(V&A E.12605-1886)
*国芳「源頼光の四天王土蜘退治之図」(ボストン美術館 11.38196a-c)