A2-2酒呑童子退治.
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『大江山酒呑童子退治』
絵師:歌川国芳 判型:大判錦絵
出版:嘉永1年~4年((1848~1851)
所蔵:舞鶴市糸井文庫 所蔵番号:01ル32(1~3).【解説】
この作品では、頼光らが守護神らから与えられて持込んだ神便鬼毒酒を呑んで、寝入ってしまった酒呑童子を、まさに討ち取らんとしている場面が描かれている。大判3枚続の大画面を上手に使い、横たわる酒呑童子の体躯を大きく描き、次第に人間の姿から鬼の姿に変身していくその途中の様子がリアルに表現されている。左手と顔の左側はまだ肌色をしているが、右手と顔の右半分が、今まさに赤黒く変化し、髪も変色し始めている。頼光はこれもまた神々から授けられた甲を着けて酒呑童子に刃を向けている。ここから物語の山場となる戦いが始まるのである。
やがて目を覚ました酒呑童子は、巨大な鬼の姿と変じ、頼光、四天王ら襲おうとするが、頼光に首を落とされる。
*国芳「頼光四天王大江山鬼神退治之図」(舞鶴市糸井文庫 01ル34 )
*芳艶「大江山酒呑退治」(舞鶴市糸井文庫 01ル42)
酒呑童子の首は、宙を舞い頼光に襲いかかるが、守護神からもらった星兜が頼光を救った。
*国芳「源頼光」(舞鶴市糸井文庫 01ル47)
(小a).【補説】
酒呑童子伝説は、通常、大江山を舞台とする。しかし、数ある酒呑童子絵巻の内、そのもとの住家を伊吹山とする系統もある。これについては、やはり異常出生者としても知られている伊吹童子が関係してくる。御伽草子の『伊吹童子』では、伊吹山の山麓で獣を獲って生活していた伊吹弥三郎がおり、牛や馬を奪い、やがて人を食うようになった。あるとき近江の国の有徳人、大野木殿の姫君のところに毎夜通う男がいる。母親は、娘に糸の付いた針を男の衣の裾に刺すようにいい、その糸を辿っていくと、弥三郎の家に至った。娘の父は、弥三郎を酒で持てなし大酒を呑ませ謀殺する。そして、三十三ヶ月を経て姫から生まれたのが伊吹童子である。彼もまた大酒飲みの乱暴者で人々に恐れられたので酒呑童子と呼ばれ、七歳のときに比叡山に移り、さらに大江山に至ったのである。こうして、酒呑童子と伊吹童子の伝説は習合していった。酒呑童子説話には他にも異常出生を経たものが存在する。坂田公時はC0のにおいて解説されているとおり、山姥の子として生まれている。近松門左衛門の『嫗山姥』では、一騎当千の男子となり父の敵の残党を滅ぼすことを念じて自殺した坂田時行の憤怒の魂が、なじみの遊女(のちの嫗山姥)の胎内に宿り怪童丸(のちの坂田公時)が誕生したとされている。また『前太平記』では、のちの公時について豁如たる心(心が大きく小事にこだわらない)の持ち主であると述べている。
それぞれの出生譚を比較すると、酒呑童子は「悪党の父親の血を引く乱暴者」というマイナスイメージ、坂田公時は「一騎当千の男子になるという父の念から生まれた豁如たる心を持つ者」というプラスイメージを持つ。両者は異常出生という共通点は有するものの、全く正反対の方向性を向いて成長していったのである。【参考文献】
佐竹昭広『酒呑童子異聞』(岩波書店,1992)鳥居フミ子『金太郎の誕生』(勉誠出版,2002)≪ 続きを隠す