肉色の般若面、白頭を被り、薪を背負い、打杖を持った姿は謡曲『黒塚』の後半におけるシテの出立を描いている。前半の人生経験を積んだ女性といった姿から、後半の般若へと変貌を遂げた姿であり、世の無常を嘆く女から人を食らう鬼への変化が描かれているが、「般若」の面を付けている以上この鬼は本来人間であったものが鬼へと変貌を遂げたことを示している。
また、その一方で黒塚においては本来「顰」の面を用いていたとも言われ、こちらの面を使用するということは黒塚の鬼女の正体を最初から鬼の変化であると想定していることを示している。これは演者の解釈にもよるが、現在は女から鬼へと変化を遂げた、という解釈の元、般若を使用することが多い。(柴)
【参考文献】
小林責ほか『能楽大辞典』(筑摩書房,2012)
馬場あき子『鬼の研究』(ちくま文庫,1988)
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