F3-1 装束から見える鬼女

『能楽百番』「道成寺 後シテ」

絵師:月岡耕漁 判型:大判錦絵
出版:大正13~15年(1924~1926)
所蔵:立命館ARC  所蔵番号:arcUP1366.

【解説】
 同作者の『能楽百番』道成寺 前シテと対になる作品である。前シテで描かれていた釣鐘供養の乱拍子の場面とは異なり、鐘入りした後の完全に蛇と成り果てた女の姿が描かれている。右手には乱拍子の舞に用いられていた扇の姿はなく、代わりに打杖を持ち、前シテの際に身に纏っていた唐織を被き、鱗文様の鱗箔が露わとなっている。また、面も近江女(流派により深井など)から般若(流派により真蛇)へと変化したことで、口は耳まで裂けて角が生え、眼球も金色に輝いて尋常ではない様から、女が蛇となりこの世のものではなくなったということを明確に表している。
 この絵に描かれている能『道成寺』は、黒い頭のままであることから、特殊演出を行う観世流の小書「赤頭」ではない。また、角が生えていることから真蛇の面ではなく、般若が使用されていることがわかる。肉色のある般若は、高貴な女性ではなく中級の女性、つまりは庶民階級の女性を表す際に用いられている。般若特有の嫉妬に狂った女性の恨みと悲しみ、怒りなどの様々な表情がこの絵からも見て取れるだろう。(中)