B2-21-02 二ツ巴勢競

絵師:周重
出版:明治11年(1878)
判型:大判錦絵3枚続
所蔵:赤穂義士会
作品番号:AkoGA-G0015-01~03

 
 大判3枚続の横長の画面に5人の役者の上半身が描かれている。役者は、右から初代市川左団次、9代目市川団十郎、初代中村宗十郎、5代目尾上菊五郎、そして左端が3代目中村仲蔵で、「二ッ巴勢競」(ふたつどもえいせいくらべ)というタイトルからも察せられるとおり、いずれも大星由良之助で描かれている。左団次・団十郎・仲蔵の3人は『仮名手本忠臣蔵』四段目の裃姿(かみしも)、宗十郎と菊五郎は七段目一力茶屋の場での紋付を着付けた姿である。さらに、左団次と宗十郎、団十郎と菊五郎の2組は、それぞれ輪に結んだ紐を首にかけて首引きをして競っている。仲蔵は菊五郎の肩に手をかけて応援しているかのようである。また、画面上部には、それぞれの役者の紋が描かれ、そこに役名・役者名などがかかれている。

 「団・菊・左」ら明治期の名優5人がすべて由良之助の扮装で首引き遊びに興じる様を描いたこの作品は、もちろん舞台の様子を描いたものではないが、実は明治11年(1878)11月から12月に東京・新富座で上演された『仮名手本忠臣蔵』に即して刊行されたものである。この時の上演は七段目までで、本図に描かれる5人のほか、8代目岩井半四郎、初代坂東家橘らが出演し、おもな役はすべて毎日替りで演じられた。左団次・団十郎・宗十郎・菊五郎・仲蔵の5人が毎日入れ替りで由良之助を演じ、それぞれがみずからの芸の技量を披露し、評判を競い合ったのであろう。今日ではなかなか見られない豪華な演出である。作者の守川周重は、由良之助役で芸を競う5人の名優を、首引きで競う様子に仮託して描いてみせたというところであろうか。