3.3.1.10.日常姿の役者絵本

編著者:山東京山(作)、鶴屋南北(序)、歌川国貞(画)
判型:半紙本/2巻2冊 
出版年:文政10年(1827) 
資料名:夏の富士(なつのふじ)
資料番号:arcBK02-0005 所蔵:立命館ARC

 似顔の表現が定着すると、衣装や紋だけに頼らず、顔立ちや雰囲気によって役者を描き分けることが可能になった。そのため、役柄を演じる舞台上の姿から離れ、役者絵・役者絵本の関心は、役者の素顔や日常にも広がっていった。その結果生まれたのが楽屋や日常生活における役者の姿を題材とする作品である。

 その例として、安永9年(1780)に勝川春章が刊行した『役者夏の富士』がある。「夏の富士」という題名は、夏に雪が解けて地肌が見える富士山になぞらえ、白粉を落とした役者の素顔を描くことを意味している。役者の日常姿を描くためには、よく知られた舞台姿ではなく、顔の特徴によって人物を見分けさせる必要があり、似顔の技術が重要であった。

 本作『夏の富士』は、文政12年(1829)に刊行された歌川国貞画の役者絵本である。勝川春章の『役者夏の富士』が墨摺であったのに対し、本作は彩色摺で、江戸・京・大坂の三都の役者たちを役者名とともに描いている。役者の日常姿だけでなく、稽古風景や舞台裏、庭園風景なども表されており、舞台上では見ることのできない役者の素顔に近づこうとする関心がうかがえる。

 贔屓の役者の普段の姿を知りたいという欲求は、観客にとって自然なものであった。とくに江戸では、上方に比べて役者個人への関心が強かったとされる。役者絵・役者絵本の日常図は、演技する役者だけでなく、一人の人物としての役者を見たいというファンの興味に応えるメディアであった。(宮﨑・戸塚)

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