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著者:吉田修一
作品名:『愛蔵版 国宝 上 青春篇』『愛蔵版 国宝 下 花道篇』
出版:令和7年(2025)9月30日 朝日新聞出版社
資料番号:arcTB02-02140 所蔵:立命館ARC。
映画「国宝」は、吉田修一の同名小説を原作に、李相日監督が2025年に映画化した人間ドラマである。第78回カンヌ国際映画祭の監督週間部門に出品され、公開後は邦画実写の興行収入歴代記録を塗り替える大ヒットとなった。任侠の一門に生まれた立花喜久雄は、15歳のとき抗争で父を亡くし、天涯孤独となる。その後、喜久雄の天性の才能を見抜いた上方歌舞伎の名門の当主・花井半二郎が彼を引き取り、喜久雄は思いがけず歌舞伎の世界へ飛び込むことになる。極道の家に生まれ、幼少期から暴力と隣り合わせに育った少年が、古典芸能という全く異なる世界に身を置くことになるこの転換が、物語の出発点となる。
喜久雄は半二郎の跡取り息子・俊介と兄弟のように育てられ、親友として、ライバルとして互いに高め合いながら芸に青春を捧げてゆく。生い立ちも血筋も正反対の二人だが、歌舞伎への情熱という一点で結ばれ、互いを映し鏡のように意識しながら成長する。ある日、事故で入院した半二郎が自身の代役に俊介ではなく喜久雄を指名したことから、二人の運命は大きく揺るがされる。生まれながらに後継者としての地位を約束されていた俊介と、何も持たないまま才能だけで這い上がってきた喜久雄。その対比が、この指名によって一気に亀裂に変わる。嫉妬、裏切り、別離。二人の関係はここから複雑な変容を辿ってゆく。物語は喜久雄の数十年にわたる生涯を縦軸に据え、栄光と転落を繰り返しながら芸の道を歩み続ける男の姿を描く。歌舞伎の世界に渦巻く因習や権力構造、そして人間関係の業の深さが、喜久雄の人生に何度も影を落とすが、極道の血と歌舞伎の美が同居するその矛盾した存在として、喜久雄は舞台に立ち続ける。
主演の吉沢亮(喜久雄)と横浜流星(俊介)は1年半にわたって歌舞伎の稽古を積み、本格的な舞台を映画の中で披露した。劇中では「鷺娘」や「曽根崎心中」といった演目が重要な場面で登場し、歌舞伎の演目そのものが喜久雄の内面と重なりながら機能している。劇中で登場する歌舞伎の演目は、他に『関の扉』、『連獅子』、『二人藤娘』、『二人道成寺』である。
本作は上方の歌舞伎界が舞台になっており、近畿圏の複数の歴史的建造物を用いてロケ撮影が行われた。例えば先斗町歌舞練場が「浪花座」として使用されている。
一方、原作小説は上下巻で喜久雄が人間国宝へと歩む50年の軌跡を綴った壮大な長編で、主人公の半生を積み重ねるように描く構造になっている。映画版ではこの「人物の背景描写」が大幅に簡略化されているが、幼少期のエピソード、人間関係が形成される過程、舞台芸術に惹かれていく内面描写など、長編ならではの積み重ねが削られて物語の要点だけが選び抜かれている。
物語の終盤、人間国宝となった喜久雄が「鷺娘」を踊り、客席のない雪の舞台から静かに幕となる。任侠の家に生まれ、血と暴力の中で育った男が、日本の伝統芸能の頂点に辿り着くまでの道のりを、この映画は約3時間かけて描き切る。(元田a.)
映画「国宝」プログラム 令和7年(2025)6月6日発行(編集 株式会社東宝ステラ)
1.2.映画「国宝」
