C3 黒い定九郎.

作品名:「忠臣蔵十一段続 五だん目」
出版:天明(1781~1789)後期
絵師:勝川春章〈1〉
判型:中判錦絵
所蔵:立命館ARC(arcUP0429).

中村仲蔵の演じた定九郎は全身が白塗りであったが、この春章の描いた定九郎は全身が黒く汚れたようになっている。これは鉛白という白色絵具を使用しており、それが空気に触れることで黒変してしまったと考えられる。元々はやはり白塗りであったことがわかるのである。変色の仕方を見ると、定九郎の顔の辺りはかなり変色してしまっているのに対し、足の辺りはあまり変色していない。肌色が残っていることから、白粉のムラを表現したかったのか、あるいは上半身の白さを強調したかったものではないかと考えられる。

この絵には他にも変色してしまった部分がある。例えば定九郎の足元に落ちている傘の真ん中の辺りには鉛丹が使用されていたと考えられ、元々は黄色味を帯びた赤色のようだった。与市兵衛の笠は背景と同じ色であることを考えると、破れ傘を異なる色にすることで定九郎をより引き立たせようとしたのではないだろうか。(堀)