G3 浜松屋の構図.

作品名:「横島田鹿子振袖 浜松屋之場」
上演:明治22年(1889) 6月 東京・中村「横島田鹿子振袖」
絵師:歌川国貞〈3〉
判型:大判錦 3枚続
所蔵:立命館ARC(shiUYa0028~0030).

こちらも浜松屋のシーンを描いた作品であるが、弁天小僧のほかに南郷や玉島逸当(日本駄右衛門)、浜松屋の主人幸兵衛も描かれている。物語では後に日本駄右衛門が浜松屋の息子、宗之助の父親であり、幸兵衛は弁天小僧の父親であることが明らかになるわけであるが、それに対する人物の心情はあまり描写されておらず不十分と言わざるを得ない。しかし、その事実を帳消しにするほどの名場面が本作品が描く、浜松屋での弁天小僧の口上の場面である。
この作品の面白い点は遠近法がわかりやすく用いられているところである。左の南郷の絵の背景は他の店や倉が連なっており、町の様子を描こうとしていることがわかる。さらに左端には浜松屋からどれほど距離が離れているとも知れぬ山が描かれている。しかし、南郷が建物や山よりも、かなり大きく存在していることや、残りの二枚の絵の背景が浜松屋の店先であることにより鑑賞者の目は人物に惹きつけられ、ダイナミックな役者絵を作り出すことに成功している。
また、『続々歌舞伎年代記』のこの興行に関する記事からわかるように、尾上菊五郎病気欠勤の為、二番目が団十郎の「ちょいのせ」に差し替えられた。したがって本作品が予定稿として描かれた作品であることが分かる。(住宮)

「日本駄衛門 市川団十郎」「南郷力丸 市川左団次」「浜松や幸兵衛 尾上松助」「弁天小僧菊之助 尾上菊五郎」