E5 掛物絵の弁慶.

作品名:「歌舞伎十八番之内 武蔵坊弁慶 市川団十郎」
上演:明治8年(1875) 10月 東京・中村/新堀「勧進帳」
絵師:豊原国周
判型:掛物絵錦絵
所蔵:立命館ARC(arcUP6071~6072).

この作品の最大の特徴は、絵が縦に長いことである。これは主に掛け軸に用いられていたためであると考えられる。この判型の浮世絵を柱絵または掛物絵と呼び、鳥居清長(1752~1815)の時代に全盛期を迎えた判型である。この作品は明治に入ってからのものであるが、明治20年ごろの浮世絵商は「長絵」という名称で柱絵を外国に販売していたという。長い紙に一つの絵をまとめることは、絵師として高い技術が要求された中で、本作品は非常にダイナミックな仕上がりになっており、弁慶の勇ましさ全面に押し出された作品となっている。
その一方で足に注目してみると、右足は親指を地面方向に倒しているのに対し、左足は逆にかかと以外は浮かせているという、実際に真似をしてみると随分と違和感のある、奇妙な立ち方をしていることが分かる。役者絵はどうしても顔や衣装を中心に鑑賞してしまうが、このような細かい点に注目してみるのも面白い。なお、改印を見ると亥四と読めるが上演記録を見ると4月は記録がなく、この年の実際の上演は10月に行われている。(住宮)