E6 延年舞.

作品名:「歌舞伎十八番之内 勧進帳」
上演:明治23年(1890) 5月 東京・歌舞伎「勧進帳」
絵師:落合芳幾
判型:大判錦絵 3枚続
所蔵:立命館ARC(arcUP5055~arcUP5057).

これまで紹介してきた作品とは場面の異なる弁慶を描いた作品、物語のクライマックス、疑いが晴れた義経一行は富樫から酒をふるまわれる。そこで弁慶は酔っ払い、延年の舞と呼ばれる舞を舞う。そのため弁慶を演じる役者は調子や柄が上手なだけでは務まらず、舞踊の才能も兼ね備えていなくてはならなかった。今回は描かれている人物にスポットをあてたい。
弁慶の役を演じているのは九代目市川團十郎である。彼は明治36年に没するまで生涯の間に実に二十回もの弁慶を演じた。他の役者が弁慶を演じることをほとんど許さなかったことから明治の弁慶の大多数を9代目団十郎が演じていることになる。その中では当時では珍しい天覧歌舞伎であったり、素顔、地頭で演じたこともあった。九代目団十郎は役になりきるのが得意で他の役者たちをも物語の世界に引き込むような演技ができたという。本作品は明治23年の制作であり、団十郎は52歳となっているが晩年の円熟した延年の舞を3枚続で見事に描いており壮大な作品となっている。(住宮)