E4 水墨画の背景.

作品名:「歌舞伎十八番の内 勧進帳」
出版:明治20年(1887)6月 東京・新富「勧進帳」
絵師:豊原国周
判型:大判錦絵 3枚続
所蔵:立命館ARC(shiUYa0061~0063).

国周によって製作された3枚続きの錦絵で9代目市川団十郎演じる弁慶が市川左団次が演じている富樫の前で勧進帳と称した巻物を読み上げるシーン、このシーンは弁慶が上手を見て束に立ち、富樫も足を開いて巻物をのぞき込もうとする形できまる、重要な見得である。しかし、この絵で深読みしたいのは人物ではなく背景である。おそらく松が描かれているが、一般的な勧進帳の役者絵の背景は大きな松が鮮明に描かれるかことが多い。しかしこの絵は墨で薄く細く、幹を描かないなど特徴的である。国周の他の勧進帳の作品もこのような背景であり、彼のこだわりが見てとれる。背景はおそらく摺られているのだろうが後から筆で付け足されたようにも見え、水墨画のような印象を与える作品となっている。(住宮)