Hisaji Sekichi

10:00「東洋絵画の修復におけるデジタルとの共存」
10:00AM "How to Apply Digital Technology in Restoring Asian Painting"

 この世界に入り40年を超えることとなりましたが気がつくと先輩、同期の人たちはめっきり少なくなり、名前もしらない後輩が多いのに驚きを覚える。そしてシンポジウムの発表等で後輩達がデジタル機器を使い、更なる修復の全体的な向上をめざし日々努力し研究発表する様子を見て、良い方向に変わって来たのかなと感慨深いものを感じる。

私個人の40年の経験を省みて最も大きな驚きはデジタル機器の出現とそれらを器用に使いこなし応用する若者たちの出現である。デジタル機器の使い方は説明書があるが我々の修復技術であるアナログの説明書はなく。基礎を伝承で受け実体験を重ねさらに工夫を加え後輩に伝えながら自分自身も学んでいかなくてはならない。10年、20年、30年、40年となんとなく経験を積んできたがやっと一通りの経験を積めたかなと思う。そのアナログの経験を生かし、次なる50年、60年とデジタルと共存の経験を積めるように更なる探求を続けていきたい。
 
昨今この業界においても技術はアナログ、記録はデジタルでいかに上手に併用していくかが会社の実力の一部になっているといっても過言ではない。作業に取り掛かる前の調査、修理中・修復後のデータ保存の活用は報告書の作成になくてはならないものであり、記録保存は修復作品の保証書と考える。特に修復前の光学デジタル機器を使用しての調査は作品の破損状況を詳細に掌握でき、アナログの時代に比べより安全な修復が可能になったと考える。又、遠くの美術館(アメリカ)の作品の修復中に問題が生じれば、瞬時に写真や動画をデジタル機器で送り協議・決断が可能となり、情報の伝達においてもすばらしい力を発揮しているのが現状である。しかし、便利に合理的になっていく時代にも忘れてはいけない事が多くあり、そのひとつに師から学んだ気持ちである。非デジタル的で抽象的であるが話の中で述べさせていただきたい。
 
様々な作品との修復を通じての出会いがある。いずれにおいても文化を有する物でその作品の本質を察知し、本質を消すことなく情報を後世に伝承していくのが正しい修復であろう。そのことは昔においても現代においても変わらないと考える。理想とする修復はどうすればよいのかと修復家は常に考えなくてはならない。しかし、経験上自己満足で終わってはいけない。有識者・研究者・学芸員の諸先生方の意見を交え、進めて行くのが理想の修復と考える。
 
今回のシンポジウムのテーマはデジタルとの共存であり、アナログ時代に育った私から見るデジタルに移行していく今を述べる。