「Digital Art Entertainmentとしてのテレビゲームの研究」では、京都で生み出された最も新しいグローバル・エンタテインメントであるビデオゲームに焦点を当てながら、コンピュータゲームという新しいエンタテイントがどのように創成され、どのように新しいエンタテインメンタリティを創発していったのかを明らかにする研究をすすめている。そもそも、このような研究を進めるためには、対象であるゲームソフトウェアを素材として自由に参照できる環境が必須であるが、現在のところそれに類する組織や機関は存在しない。
その理由としては、動的でインタラクションを伴うコンテンツをデジタルアーカイブするというコンセプトと方法論が成立していないということが根本にある。ここでは、動的でインタラクションを伴うコンテンツの代表としてのビデオゲームのライブラリー(ゲームアーカイブ)を構築する際の課題と展望についての研究経過を報告する。
1983年にテレビゲーム機「ファミリーコンピュータ」が発売されて以降、多くのテレビゲームソフト作品群が生み出されてきた。テレビゲームは一般家庭に普及したテレビ受像器を使う家庭用娯楽機器ではあるが、その実体はコンピュータを駆使した新しいAV機器と考える事ができる。VTRやDVDプレイヤーと同様、テレビ受像器の周辺機器としての性格を持っている。半導体技術やコンピュータ技術の高度化につれ、テレビゲーム機がテレビ画面に映し出す映像は次第にリアル化され、迫力ある映像でゲームを楽しむことが可能になってきた。
テレビゲーム機の最大の特徴はテレビ画面に映し出された映像をテレビゲーム機に備え付けられた専用のコントローラで操作することが出来るところにある。この特徴を駆使することで、誰もが楽しめ、一人遊び可能なゲームに仕立てることが出来たところに、テレビ受像器の周辺機器として急速に普及する一因があった様に思われる。
ファミリーコンピュータの普及をきっかけに急速に進歩したテレビゲーム機が生み出してきた膨大な作品群は絵画や映画等と同様に、新たなコンピュータゲームソフト作品を生み出すための研究素材として重要である。そのためには、まず過去に開発されたテレビゲーム機とテレビゲームソフトを研究素材として活用できる形で保存する事が必要であるといえる。
しかし、個人としての取り組みを除くと、「ゲームアーカイブ」を指向した組織的な取り組みは多くはない。数少ない取り組みとしては、「テレビゲーム・ミュージアム・プロジェクト」[1]や、「ゲームアーカイブ・プロジェクト(GAP)」[2]などがある。
また、国立国会図書館は、2002年度より「パッケージ系電子出版物」としてのゲームソフトを納本制度の対象として収集しており、2009年度を目処にその一部をデジタルアーカイブに構築する準備を進めている[3]。2003年、2004年には東京都立写真美術館、国立科学博物館で初めての本格的なゲーム展覧会が開催された[4]。しかし、いずれの取り組みもコンピュータゲームの歴史と蓄積を網羅するものにはなっておらず、初期のソフトウェア、ハードウェアについては依然として散逸が危惧される状況が続いている。
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