B4-3 巴と山吹
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『源平盛衰記』
絵師:孟斎芳虎(画) 判型:中本3冊
出版年:明治2年(1870)12月改
所蔵者:高木元 作品番号:Tkg-342.【解説】
展示作品は、『源平盛衰記』を原典とした草双紙である。巴と「山吹」という名の女性が並んで描かれており、ともに女武者の姿をとっている。記述によると、山吹は巴と同じ義仲軍の一員として合戦に参加したものの、味方と共に討死したという。その一方で巴は、味方の武将たちを破った敵を討ち取る活躍を見せている。
山吹について、『平家物語』巻9には「木曽は信濃を出でしより、巴・山吹とて、二人の便女を具せられたり。山吹はいたはりあって、都にとどまりぬ。」とある。巴も山吹も義仲に付き従って京都に来たが、山吹だけは病気のため合戦に参加できなかったのである。また、『源平盛衰記』巻35「巴関東下向事」には、山吹に対応するであろう「葵」という木曽方の女武者が礪並山の合戦にて討たれたという記述がみられる。
省略しても物語の運びにさして影響を与えることのなさそうなもう一人の女武者の存在が題材として残る理由は、巴の「引き立て役」を担うためであろう。「義仲に付き従う女武者」という同一の立場、「戦場」という同一の場所に存在していながら、少なくとも本文中においては戦功をあげることなく討死した山吹と戦功をあげた巴。対照的な二人の姿を描くことにより、巴の能力の高さがより際立っている。山吹の存在により、この場面、ひいては物語において、戦場で活躍を見せる女武者としての巴の特殊性が増しているのである。(菅)【画中文字翻刻】
兼平と組で うち死す ともへ女は 尾張の守清貞をうちとる 山吹は 摂津判官貞房かためにうたれ 黒岩太郎は景清が為に討死す 又も平家はいぐんにおよぶ 武蔵三郎左衛門あり国 しんがりして 味かたをおとし おひくる敵をふせくところ 今井四郎兼平これを見てあつぱれ敵よと討てかゝり 兼平戦ひまけて 引ひりぞく 新庄次郎左衛門高則兼平と入かわり 鉄ばうにてたゝかひしが また手を負て ひつかへす 又ともへ女勝負して終にあり国をうちとりけり 此時伊東九郎俣野五郎をはじめとして あまたの勇士討死す こゝに義仲は手勢にふれていはく 斎当別当実盛【参考図】
同じ草双紙に描かれているものである。こちらでは、巴と「さらしな」という名の女性がともに描かれている。記述によると、巴もさらしなも怪力を誇る猛婦であり、義仲方の武将として力戦したという。
挿絵には巴とさらしなが二人で敵方の武将を討ち取る様子が表されているのであるが、さらしなが後ろ姿で敵方の武将とほぼ変わらない大きさで描かれている一方で、巴は大きく、手に持つ薙刀が見開きで頁を横切るような目を引く構図で描かれている点から、巴が優遇されている印象を受ける。
さらしなもまた山吹と同じく、女武者としての巴を引き立てるための存在として物語に描かれたのであろう。【参考文献】
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高木元「絵入本についての覚え書き」2006
http://www.fumikura.net/paper/eiribon.html (参照:2017/12/04)
美濃部重克ほか編『源平盛衰記(六)』2001 三弥井書店 -
- 投稿日:
- by 8P
- カテゴリ: B 源平合戦の女たち,B4 巴御前
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