B4-0 巴御前...

 巴は、平安時代末期~鎌倉時代初期の女性で、生没年不詳、その実在の正否についても未詳である。『平家物語』においては、容姿端麗ながらも一騎当千をうたわれる女武者として描かれている。彼女は、木曽義仲方の一方の大将をつとめ、義仲軍が主従五騎になるまで討たれてもなお彼に付き従った。巴は最後まで義仲と共に戦うことを願ったものの、討死を決意した義仲の命によりやむなく戦場を離脱することになるのだが、義仲への最後のはなむけと言わんばかりに、敵方の大将の首をねじ切ってみせる。『平家物語』の一異本である『源平盛衰記』においては、のちに鎌倉に召し出され、和田義盛の妻となり朝比奈三郎義秀を産む。和田親子の死後は出家し、義仲や和田親子の菩提を弔いつつ91歳まで生きたとされる。
 『平家物語』『源平盛衰記』における巴の登場場面はごく短いものである。しかし、『平家物語』に登場する女性の中でも異彩を放つ合戦での活躍、『源平盛衰記』で新たに加えられた女性としての生き様は、後世の絵画・大衆向けの本・伝統芸能などの格好の題材となっている。
 このパートでは、(1)『平家物語』中の戦闘描写から引き継がれる女武者としての力、(2)『源平盛衰記』中の描写に代表される女性性、これら2つの要素に着目して、英雄性を検証していきたい。(菅.)