A2-0 大力女...

 人知を超えた大力の女性は、『日本霊異記』の道場法師の孫娘と尾張国中島郡の役人の妻、『古今著聞集』の大井子と近江のお兼、『留守家旧記』の母、『譚海』12の姉、民話の おりか など数多くの人物が伝えられている。それらは、小説、民話、絵画、歌舞伎、講談などにも取り上げられて人口に膾炙した。
 女性が持つ人並外れた力は、人助けなど善の能力と見られる大力がある一方、恐怖の対象ともなる怪力の悪として現出して、両面的な意味を持つ。
 律令国家の時代には、「膂力婦女田」という大力の女性に管轄する田地を与えられていた記載もあり、また、江戸時代には大力の女性による女相撲が催され、見世物として色気に走るものもみられる。このように、大力の意味には、さまざまな要素があるようにも思われるが、大力の女性が特殊な位置にあったことが窺える。
 そもそも、女性には神から授かった目に見えない力が備わっており、その力は女性を介してよその家や他者に伝わっていくのだと考えられている。その力にフィジカル的な大力を加えるべきなのか、また加えたとして、必ずしも女性を介するのでなく、血筋によって伝わるのではないかと考える場合もあり、説は定まっていない。
 しかし、女性を介して他者に大力を伝えられるという民俗は、『古今著聞集』の大井子や紀州毛原の茗荷などの事例からも確認できる。
 このパートでは、とくに、大井子とお兼を取り上げてみたい。両者は、鎌倉時代の説話集『古今著聞集』に登場した、近江の大力女である。(勝.)